を取り戻す
多良間・一日目・その4


 『多良間村役場』の前に、でかい“多良間島マップ”が立ててあるのを見つけ、それをじ〜っくりと見つめて頭の中に叩き込んだ。どうやら史跡などの類のほとんどは、集落の周辺に集中しているようだった。これだったら、宛て無きほっつき歩きでも“見どころ”を観て周るのに苦労することは無さそうだ。
 ただ、先ほども言ったけど、とにかく陽射しが強い!台風が近づいているというのに、ジリジリと照り付ける太陽は僕の肌を容赦なく真っ赤に染め上げていく。…日に焼けるのはマズい!会社に僕が沖縄に行って来たことがバレバレになっちまう。僕は、少しでも陽射しを避けるようにと、日陰や木蔭を選んで散策をする。
 
 ちょうど学校が終わった頃合なのだろう、集落のあちこちで子供たちを見かける。子供らは、僕のことをジッと見る。たぶん「見たこと無い人だよなぁ…」といぶかしんでいるんだろう。僕が挨拶をすると、ちゃ〜んと挨拶を返してくれる子供もいれば、恥ずかしいのか笑いながら走り去ってしまう子供も居る。
 集落で人と擦れ違うときには、ほぼ例外なく“ニコニコ笑顔でご挨拶”が僕のポリシーなので、当然ここ多良間でも敢行。オジィオバァ、おじちゃんおばちゃん、とにかく視界に入ってくる人には残らず挨拶。みんな笑顔で答えてくれる。多良間の集落って結構人通りが多いので、頬の筋肉がつりそうになるぐらい、僕はひたすら笑顔で「こんにちは〜」を連呼する。
 「暑いねぇ、どこへ行くの?」 「どこからいらしたの?」 「旅行?お仕事?」
 特別な会話を交わすわけじゃないけど、そんなありきたりな遣り取りだって心地いい。この心地良さが、たぶん僕を離島に惹き付けているんだろうと思う。
 空き地にビニールシートを敷いて、その上でゴロンと横になっているオバァたちも居た。5人が仲良く『川』の字ならぬ『川||』の字になって青いシートの上で寝転がっている様は、なかなか圧巻だ。
 「あはは、やだぁ。おにいさんがビックリしてるよぉ」 「あんまり見んでヨ〜」 オバァたちは寝ながらゲラゲラと豪快に笑う。
 「お昼寝ですか?」と僕が訊ねると、「ここはちょうど木の陰になってるし、風が通り抜けていくから涼しいんですよ。ここでこうやって一休みしてねぇ」と、オバァが言う。…いいよなぁ、こんなふうに時間がゆっくりと柔らかく流れているのってさぁ。
 島を周っていると、こういった“時間の流れ”がバッチリと目に見える瞬間がある。ハエが止まりそうなほどの超遅なスピードで自転車を漕いで行くオジィの背中に、赤ん坊を抱いて縁側であやしているオバァの表情に、畦道に停めたオンボロ軽トラックの蔭でお茶などを飲んで憩っているおじさんの姿に、店先でおしゃべりしているアンマーたちの笑い声に…。
 もちろん、毎日忙しく暮らす、というのもそれはそれで素晴らしいことなんだろうけど、僕はやっぱりのんびりとした暮らしに憧れてしまう。何しろ「忙」っていう字は「心を亡くす」って書くぐらいだからねぇ。

 そんな感じでブラブラと集落を歩いていると、なにやら石積みの小さなアーチのようなものが見えた。『ウプメーカ』だね。この“ウプメーカ”のことは、ガイドブックで読んだことがある。“豊見親”とかいう人の墓なのだそうだ。…でも、豊見親さんって、一体だれ?島の偉人か何かだとは思うんだけど…
 とまぁ、詳しいことはよく分かんないけど、このお墓はかなり面白い形をしている。背の低い石垣で仕切られた参道(?)の先に石積みのアーチがあって、そのアーチの奥に家の形をした石積みのお墓がある。こういう墓ってはじめて見る。
 しかし実は、僕はこのアーチをくぐってないのだ。人のお墓に迂闊に侵入していいものかどうか、ちょっと悩むところだし。でも、心配ご無用♪ この『ウプメーカ』のすぐ隣りに“夫川区公民館”というのがあって、その公民館の敷地内に(何故か)ある滑り台に上ると、『ウプメーカ』の中の様子が上から丸見えなのだ。
 ところで、前にも書いたけど、この多良間島の集落には、ホントにたくさんの“公民館”がある。で、その公民館の敷地内には、滑り台やらブランコやら鉄棒(?)といった遊具が備え付けてある。きっと、近所に住んでる子供たちがこれで遊ぶんだろう。
 
 その『ウプメーカ』のすぐそばに、『多良間神社』があった。へぇ〜、多良間に神社があるなんて、ちょっと意外だ。
 この神社には、先ほどの『ウプメーカ』で眠っている“豊見親”という人物が祀られている。この人物、やっぱり島の偉人だったのだ。偉人も偉人、大偉人!って感じ。多良間の統一、島民の教育、郷土開拓の先駆、あの“オヤケアカハチ”討伐にも参戦した、というスんゴイ人なのだ。まぁ、神社に祀られちゃうような人物だからね、それぐらいスゴイ人で当然なのかもしれないけど。
 でも、“神社”っていう定義って、いまいち分かり難いと思わない?教会だったらイエス・キリストだし、お寺だったらお釈迦様、というように対象が分かり易いけど、神社っていろんなものが“神様”として祀られてるでしょ?デパートの屋上や駐車場なんかに祠があったりすることも多いし。この『多良間神社』では、豊見親さんが神様だということになるんだろうけど…だったら、例えば「女性(主婦)の自由な生き方の先駆者」として松田聖子を祀った“聖子神社”だとか、「日本を飛び出し、世界で活躍できるということを実践して見せた」イチローを祀った“イチロー神社”なんてものがあっても、ぜんぜん問題ないってことなのかなぁ?…って、そんな神社が出来たところで、どっちの神社も僕はお参りしたくないけども。
 

『ウプメーカ』です。民家の間に忽然と現れます。
アーチの入り口はかなり小さめ。屈まないとくぐれない。
うっかりすると見落とす可能性も…

  

アーチの奥にあるお墓。
沖縄でよく見る亀甲墓とも横穴式の墓とも違う。
どこか古墳チックな匂いもするような…

  

“ウプメーカ”の隣りにある『夫川公民館』の滑り台。
右上の写真はここから撮りました。
しかし…この滑り台、ちょっと滑りにくそう。

  


『夫川公民館』の中をちょっと覗かせてもらう。
賞状&トロフィーがたくさん飾られてました。
天井の扇風機がイイ味出してますなぁ。

  

『多良間神社』。静かな佇まいでございます。
手前の鳥居には寄贈した人の名前がデカく刻まれてる。
鳥居を寄贈するって、何かスゴイよね…

  

離島名物・仮死状態のトラクター(^_^;)
かと思いきや、どうやら現役で活躍しているようだ。
…これ、ホントに動くの?と疑っちゃうよねぇ。

  

 さらに、集落から離れてみる。僕は『八重山遠見台』を目指してみることにした。
 島の北側に3本の巨大な鉄塔が立っていて、それを目印にして遠見台のほうに向かって歩いてみる。途中、『多良間村ゲートボール場』などに寄り道しながらも、案外すんなりと『八重山遠見台公園』に到着。
 さて、この『八重山遠見台』なんだけど、今現役で活躍している遠見台は、わりと最近に新しく建てられた立派なコンクリート製の塔なんだけど、本来は石積みでそれほど高くない。今でもその古い遠見台は公園の中に残されているんだけど、「え?これが?」と思ってしまうようなシロモノ。木が生い茂っていて、パッと見ではそれと気がつかないような感じ。
 僕は塔に上ろうと、塔の入り口に近づいてみる。が、鉄格子のドアがしっかりと閉められている。…まさか、塔に上れないのか?!と一瞬あせったが、鍵は掛かっていなかったので、僕は鉄格子を開けて塔の中に侵入する。
 螺旋階段を上って塔のてっぺんに着くと、それはそれは開放的な眺望が広がっていた。緑と畑の溢れる多良間島が一望の元だし、その遥か彼方には水納島(一世帯しか住民のいない小さな島)や、石垣島がしっかりと見える。さすがは『八重山遠見台』。その名に偽りナシ!
 ちなみに、多良間島にはこの他にも『宮古遠見台』や『水納遠見台』もあるらしい。ただ、こういった本格的(?)な展望台が設けられているのは、ここ『八重山遠見台』だけみたい。
 …しかし、塔の上は風が強い!多良間島って、島自体がまっ平らで、風を遮るものがほとんど無い。その上、この高所だ。風も我が物顔でビョービョーと思い切り吹き荒びまくっている。
 強風→台風→飛行機欠航。イヤな連想が頭を巡る。もはや明日に多良間を離れるのをあきらめかけている僕にとって、この風はあまりにも悲しい現実を改めてつき付けているかのようだ。あぁ、気が重いよぉ。

 僕はだんだん居たたまれなくなってきて、遠見台から降りることにした。ハァ〜、風…風…頭の中は風のことでいっぱい。
 と、僕がトボトボと公園の中を歩いていると、一台の自転車が停まっていた。その自転車のかごの中には…うわっ!でかい鎌(カマ)が!僕の顔より一回りは大きな鎌が、何気なく放り込まれていた。…怖いよな、これ。えらく物騒な感じ。このデッカイ鎌の持ち主は、一体どんな人物なのか?
 僕が鎌を見つめていると、頬被りにモンペ姿のアンマーがやって来た。「こんにちはぁ」と、アンマーは僕に声を掛けてきた。どうやら草刈りをしていたようだった。僕が想像していた“犬神家の一族”的な展開とは程遠いアンマーのほのぼのテイストに、安心するやらガッカリするやら…
 「お仕事ですか?」 アンマーが訊いてくる。…なんで「観光ですか?」って訊かないんだろう?ひょっとして、それだけ普段から観光客が少ないってことなのかなぁ?
 「今はね、島の外からお巡りさんもたくさん来てるし、取材か何かで島に来てる人も居るみたいですよ…」とアンマーが言う。取材?…あ、そうか、村長選挙がらみで、ってわけか。
 「どこにお泊りなんですか?」 
 「あ、『ちとせ旅館』に…」
 「あそこにも、お巡りさんが何人か泊まってるはず…」
 え?そうなの?知らなかった。って言うか、僕が旅館に着いたときには、宿の中にはお客さんは誰も居なかったからなぁ。そうかぁ、警察官も泊まってるのかぁ…
 「今はね、島の駐在さんが那覇に出ていて島に居ないんですよ。だからお巡りさんが余所から島に来てるんです」
 ふ〜ん、なるほどねぇ。でも、この大事な時期に、何だって駐在さんが多良間を離れているんだろう。

 僕らはお別れを言って、そのまま『遠見台公園』を後にした。アンマーが集落に消えていくのを見送って、僕はしばらくぼんやりとその場で考える。
 「…これからどこに行こうかなぁ」
 もう午後4時をかなり過ぎているというのに、太陽はガンガンと照り付ける。この陽射しの中を目的も無く彷徨うのって、結構しんどい。
 僕はまたまた集落のほうに戻ることにした。…ね?島に着いたときに危惧したとおりになっちゃってるでしょ?「旅館の周りを無駄にグルグルと徘徊しているうちに、旅が終わっちゃいそうな…」って。
 そう言えば、多良間に来てからまだ海を見てないなぁ。よし!海でも見に行くか!台風の影響で荒れているであろう、多良間の海を…。あんまり見たくないけど…
 

島の北側に聳え立つ“鉄塔”。
マップにも書かれている、島のランドマーク(?)。
目印として、結構重宝させてもらいました。

  


『多良間村ゲートボール場』。立派な公共施設!
かなり広い敷地。休憩所・トイレも完備。
沖縄のゲートボール人気はハンパじゃない!


『八重山遠見台公園』です。
実に緑が豊富な緑地公園状態。
ピクニック気分で出かけてみるのもいいかも。

  

これが“現・八重山遠見台”。
螺旋階段で塔の上まで登ります。
見様によっては結構モダンな建造物に見えなくも無い。

  

塔の中には何故か釣鐘が…撞けるの?これ。
“文化之鐘”っていうみたいです。
多良間村村制80周年記念で平成5年に作られた。

   

公園を見下ろす。緑がいっぱい!
緑って、やっぱり心が和みます。
…虫が多いのが難点ではあるけれども。

  

畑。見渡す限りの畑。
ちょっと北海道風味な感じ。
沖縄の離島って、わりとこんな感じ。

  

集落が見えます。遠くには海も。
この塔は眺めが最高にいいので、オススメ。
風が容赦なく吹き付けて来やがりますけどね。

   
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