会議踊る
多良間・一日目・その3


 集落から少し歩いて行くと、周りの景色はどんどんと緑に覆われはじめる。
 さて、気になる台風のことなんだけど…多良間島に到着した直後は少し風が強くなって来ていて、『ちとせ旅館』のおばちゃんのあの「飛行機、飛ばんかもしれないよぉ」の一言と相まってものすご〜くイヤ〜な感じだったのだが、今はすっかり落ち着いていて、「ホントに台風なんか近づいてるのか?ぜ〜んぜん平気じゃん。宿のおばちゃんも人が悪いよなぁ、脅かすようなこと言っちゃってさぁ」などと、僕を油断させるに充分な静けさを保ちつつあった。
 
 集落に程近いところにあった“慰霊之塔”などを見たりしながら、宛ても無くほっつき歩いていたのだが、とにかく陽射しが強烈で、あっという間に僕の顔や腕は真っ赤になってしまった。…このまま目標も無くブラブラと散策していられるような状況じゃない。そんなことしてたら日射病で倒れそう。
 …とりあえず、何か地図のようなものがあると有り難いんだけどなぁ。…う〜む、ちょっと集落の中に戻って、何か多良間島探検の手掛かりになるようなものを探し出すことにしよう。
 
 僕が集落に戻ると、まるでそれを見計らっていたかのようなタイミングで、村長選挙の街宣カーが横を通過して行く。
 「兼浜、カネハマ、カネハマトモノリ、多良間村の明日を創る、多良間の新時代を築く、カネハマ、カネハマ…」
 …あのぉ、この小さな集落で、こんな大音量で名前を連呼しなくても…と、僕が呆れて車の行方を見つめていると、今度は向こう側から、
 「下地、シモジマサアキ、多良間村民の皆さん、下地昌明を、どうぞ宜しくお願いいたします!」
 二人の村長候補の街宣の声が、静かな集落の隅々まで響き渡っていく。
 
 兼浜氏の選挙本部(って言っていいのかな?)は『ちとせ旅館』からほど近いところにあった。どこかのお宅の横の空きスペースに、やぐらのようなものが設置されていて、そこには支持者が常時2〜30人、とくに何をするというのでもなく、ただたむろしていた。僕がその前を通り過ぎるたびに、たむろしている人たちがこちらをジロッと見るので、何だかとても居たたまれない気分になる。そこに集まっているのは、まさに“老若男女問わず”といった感じ。広くもない路地に路上駐車してるので、結構邪魔。
 で、一方の下地氏の本部は、島の中央部にある『中央スーパー』という個人スーパーの脇に、やはりやぐらのようなものを組んで置かれていた。ただ、そちらにはあまり人が居らず、比較的静かな印象だった。事情をよく知らない僕の目には、「下地さんはちょっと出遅れてるんじゃないかな?」と映った。街宣カーの出動頻度も兼浜氏のほうが多かった(=目立ってた)ように思えたし。ちなみに、兼浜氏と下地氏の本部の距離は、たぶん5〜600mぐらいしか離れていない。
 …でも、多良間島の住民は1,200程度。そのうち有権者となると、恐らく1,000人居るか居ないかだろう。しかも、島の人ともなると、候補者のことだって“知らぬ仲”ではないだろうし、果たしてこんな街宣活動をする意義があるのか?と、ちょっと不思議に思ったりもする。どちらかと言うと派手な打ち出しをしてる兼浜さんだけど、過去に3回立候補して3回とも落選してるらしいしなぁ。こういう小さな地域での選挙戦って、こんなに熱心に街宣活動したところで、どこまでその効果があるんだろう…

 …この多良間村長選挙のことに関しては、この数日後にとても興味深い話を島の人から聞いたので、また別に詳しく書こうかと思う。
 ある意味、“島”というものの本質、さらに言ってしまえば“島国”である日本の本質を、ものすごく象徴している話だと思うので…

 とにかく、集落中に行き渡るような両候補の名前の連呼に包まれながら、僕は集落の中心部に移動する。
 

ちょっと集落を離れただけで、いきなり森な感じ。
多良間島はホントに緑が豊かな島。
ゆったりとした時間が流れています。

  

詳しくは分からなかったんだけど…
戦争で亡くなった人の慰霊塔みたいです。
多良間にもこういうのがあったとはなぁ…

  

“慰霊之塔”の脇にあった鐘。
わりと広い敷地内には樹木がたくさん茂っている。
水を打ったような静けさ。

  


奥のほうにあったお墓(?)。
兵隊さんのお墓みたいだったけど…
島の人なのかそうじゃないのかは不明。

  

集落に戻ってきました。
静まり返っているんだけど、寂しい感じはしない。
空気がまったりとしているような気がする。

   


僕はこういう雰囲気が好きなので、
これだけでもかなり満足しちゃうんだけどね。
この集落は個人的にすごく好き。

  

多良間村長選挙。候補者は二人。
下地氏は、村議会議員を務めている人。初出馬。
兼浜氏は過去に3回出馬するも、ずっと落選。
両陣営、渾身の選挙戦を展開。

  

 中心部に移動する途中で、何やら建設中の建物を見つけた。“塩川字八月踊資料館新築工事”という看板が立っている。
 そのすぐ隣りには、『ヒトマタウガン(ピィ゜トゥマタウガム゜)』という御嶽があった。この『ヒトマタウガン』は、あの“八月踊り”の会場になる場所なのだそうだ。
 “八月踊り”のことも、僕の聞いた話は後ほど詳しく書くとして、ちょっと触りだけ…“八月踊り”というのは、旧暦の八月(今の暦だと9月頃)に一年の五穀豊穣を感謝し、そして来年の豊作を祈願する“八月御願”が元の姿だったらしい。それが“奉納踊り”になっていったのが、今の“八月踊り”へと繋がっていくのだそうな。
 …まぁ、イメージとしては、“りんけんバンド”のメンバーが着ている派手ぇ〜な衣装があるでしょ?あんなようなカラフルな衣装に身を包んで、組踊りや獅子舞いなんかをする、と思っててもらえばとりあえずはOKかも。
 とにかく、この“八月踊り”は、多良間島の人々にとっても最も重要で大規模な行事であり、と同時にこれといった目ぼしい観光スポットの無い多良間島において、唯一無比の大イベントでもあるようだ。実際、“八月踊り”のときには、島を離れて暮らしている元・多良間住民も、そしてこの行事を目当てにやって来る観光客や研究者、報道陣などがどっと押し寄せて、文字通り“お祭り騒ぎ”のような賑わいを見せるとか、見せないとか…
 
 さて、そこでこの『ヒトマタウガン』なんだけど、ここは“塩川”という部落の人が踊りを披露する場所。一方、“仲筋”という部落の人たちが踊りを披露するのは『土原ウガン』という場所。“八月踊り”は、このふたつの部落が各々のウガンで、各々の台本と式次第に則って3日間に分けて踊るのだ。1日目は、仲筋の人々が塩川の人々を『土原ウガン』に招き、踊りを披露する。2日目は逆に、塩川が仲筋を『ヒトマタウガン』に招き、踊りを踊る。そして、3日目は、各々が別々に踊りを踊る。
 確かに『ヒトマタウガン』は、いわゆる“御嶽”というような雰囲気というよりは、野外ステージ、という感じだった。ちゃんとしたコンクリート製の屋根付き舞台が設けられていて、スタンド席状態になった客席(?)もある。
 僕がウガンの前でキョロキョロと様子を窺っていると、舞台の奥のほうからオバァが二人、掃除用具を手にしてこちらに向かってやって来た。一瞬「ひょっとして、“聖域”の周りを迂闊にウロチョロしてると怒られるかも…」と不安な気持ちになるが、こういうときは“必殺!ニッコリスマイル”で先制攻撃だ!僕は満面の笑みを湛えて「こんにちは〜」と挨拶する。と、二人もつられてニコッとして「こんにちはぁ」と返してくれた。
 「お掃除してるんですか?」と僕が訊ねると(って、二人を見りゃあ分かるけどさ、取っ掛かりとしてね)、
 「そう。ほら、台風が来てるさぁ。風の静かなうちに清めておこうと思って…」
 ハッ!台風!…せっかく忘れかけてたのに…そうなんだよなぁ、台風なぁ…
 「あのぉ、…明日、飛行機、飛ぶと思います?」 僕は、かなりいきなりな質問を彼女らに突撃クエスチョンしてみた。すると、二人は一斉に首を横に振りはじめ、
 「あ〜、無理無理。飛ばんよ、飛行機は。これから風が強くなってくるからね、飛行機も船もダメだねぇ」
 …訊くんじゃ無かった。ほぼ絶望的な感じ。
 「3日以上船も飛行機も来ないとね、だんだん島の人間も慌てはじめるさぁ。宮古から物が届かなくなってくるから。郵便とか新聞とかも入らんし、食べ物なんかもいろいろと大変になってくるし…」
 嗚呼、なんて不安な気持ちにさせる言葉だろう!この先3日以上も島を離れる手立てが途絶えてしまったとしたら…僕は会社に何て説明したらいいんだ!
 「あの…3日も交通手段がダメになることって、結構あるんですかねぇ?」と、僕は恐る恐る訊いてみる。
 「台風の時期になればね、結構多いですよぉ。…おにいさんは、お仕事で?」 
 「いや、ただの旅行なんですけど…明日の飛行機で帰るつもりでいるんですけど…」
 「あ〜、そりゃあ気の毒だけど、あきらめたほうがいいねぇ。私の知り合いも明日の飛行機で宮古に行く予定だったんだけど、キャンセルして明後日に予約を入れ直したってよぉ〜」
 「明後日の飛行機だって、飛ぶかどうか分からんさぁ〜」
 …だんだんと現実味を帯びてきている“休暇延長”。どうしよう。会社には何て連絡しよう。僕の心の中は、まさしく今、台風のように大荒れの状態。

 僕は半ば上の空で二人のオバァにさよならを告げ、『ヒトマタウガン』を離れた。
 頭の中には『どうしよう』とか『大ピンチ』とか『オマエはクビ!』とか、そういう単語がオドロオドロ線を描きながらグルグルと渦巻いていた。
 …でもね、もうこ〜なったらヤケだ!明日のことは明日考えることにしよう。そうだ!明日は明日の風が吹く!って、風は吹いちゃ困る〜!!
 とにかく、僕はせめて今日一日だけでも、島の中をのんびりと彷徨うことにしよう、と強い決意を固めた。きっと、明日は台風&会社のことが気に掛かって、島を散策どころの騒ぎじゃ無くなるだろう。だったら、せめて今日だけは厳しい現実から逃避して、多良間巡りを満喫してやろうじゃないか。

 相変わらず、村長候補の選挙活動の声は、集落中に響き渡っていた。
 もしも僕に村長の決定権があるのなら、間違いなく「明日飛行機を飛ばしてくれた方を村長にしてあげる!!」と高らかに宣言するであろう。
 「多良間村に明るい未来を!」 「村民が希望を持てる村づくりを!」
 ついでに、俺にも明るくて希望に溢れる明日をくれ〜〜!!
 

“八月踊り”の会場のひとつ、ヒトマタ御嶽。
ちゃんと舞台(?)が作られています。
一度見てみたいなぁ、八月踊り。

  


そのヒトタマ御嶽の隣りに建設中の資料館。
…観光客誘致のためなのかなぁ?
あまり必要ないような気もするけどね…

  

島で唯一の“信号機のある交差点”。
でも、結構無視して通過する車も多い(^_^;)
ちょっと電力の無駄遣いって観もあり。

  


島のメインストリート(?)。
大きなスーパーがあるし、裏には役場もあるし。
もっとも活気付いた場所。…なのか?

  

島一番の大型店・生協&Aコープ。
引っ切り無しにお客が出入りしてました。
そのお向かいには…

  

個人のスーパーがあります。選挙中は休業。
奥に“下地陣営”ののぼりがあるの、分かる?
ここが下地氏の選挙本部らしい。

   

そんな二つのスーパーのすぐそばにある店。
さすがメイン・ストリート!店が多い!
この他にも通り沿いには数軒の店がありました。

  

多良間村役場。
ちょっと入ってみたら、ジロッと睨まれた…
スゴスゴと退散してしまった(^_^;)

   

役場の向かいにあった『多良間診療所』のの張り紙。
“走るデブの会”…すごくダイレクト&残酷なネーミング。
しかし、午後8時から走るの?それって…

   


で、これが“小学校”。
ここの校庭で“走るデブの会”の定例会が…
参加しようかなぁ…木曜の夜8時に…

  
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