運命への助走
多良間・一日目・その1

  
 早朝に羽田を発って那覇空港に、そしてそこからJTA(日本トランスオーシャン航空)に乗り継いで宮古空港へと、ここまでは極めて順調に万事が進んでいた。
 
 今回、僕が行こうと思っていたのは“多良間島”だった。もちろん、例によって例の如く、“一泊二日の駆け足旅行”である。
 聞くところによると、あまり観光化していないこの多良間島は、国の重要無形民俗文化財にも指定され、様々な研究家が見聞に訪れたりもする“八月踊り”に代表される、伝統が息づく島なのだと言う。…まぁ、話半分で聞いておくとしても、確かに言われてみればこの多良間島について詳しく記述したガイドブックの類はほとんど無いような気がする。嘘だと思うなら、あなたの手近にあるガイドブックを調べてみたら?…ね?あんまり多良間島のことって書いてないでしょ?
 “観光客もあまり行かない、歴史と伝統の孤島”…こういう場所って、やたらと心を惹き付ける。やっぱり実際に自分の目で、どんな島なのか見てみないことにはね。
 
 さて、順調に宮古空港まで辿り着き、あらかじめ予約しておいた“宮古→多良間”の航空チケットを発行してもらう。おっ、RAC(琉球エア・コミューター)名物(?)の9人乗りプロペラ機じゃん♪
 本来、“宮古⇔多良間”を行き来する飛行機は“19人乗り”のプロペラ機なのだが、年に二回、整備と点検のために運休し、那覇の格納庫か何かに持っていくらしいのだ。その間、代わりに例の“空飛ぶワゴン車”チックな9人乗りの機体が宮古と多良間を結ぶことになる。
 そんな事情で7月2日から4日まで、ちょうど19人乗りは那覇でお休み中。僕は行きも帰りも9人乗り。(…の予定だったんだけど…)
 
 チケットも無事入手できたことだし、出発の時間までまだ少し時間がある。
 僕は空港の中にあるレストランに行き、あまり美味しくもない宮古そばなんぞを食べながら、ちょっとばかり浮き足立った気分で窓の外に広がる滑走路を眺めた。
 …そうだ、確か今、先島諸島の遥か南方に“台風4号”が接近しつつあったんだっけ…
 でも、滑走路を見ても、それほど風が強くは無いようだ。だいたい、飛行機が飛ばないような強風が吹くのであれば、僕がこれから乗り込む“9人乗り”のチケットを係員が発券するわけが無い。もしくはチケット発行の際に「お客様が乗る便は、ひょっとすると飛ばないかもしれませんが…」ぐらいのことを言ってもおかしくないはずだ。…大丈夫だな、きっと。台風の沖縄上陸の可能性はほとんど無い、って天気予報で言ってたしねぇ。それほど心配しなくても平気なんだろう。
 
 ―― しかし、宮古そばで適度に満たされた僕の胃袋に、過度のストレスを与えるような事態が訪れたのは、ほんの数分後のことだった。しかもそれは、この後にやって来る“風に翻弄される4日間”の前兆でもあったのだ。
 

いきなり硬い話で恐縮ですけど…
このニュースが毎日のように伝えられてました。
まだ米側はこの時点では身柄引渡しに応じていません。

   

で、多良間島では村長選が始まるところでした。
この“村長選”とずっと付き合うことになるとは…
まったく想像もしていなかった(^_^;)

   


JTAの機内にはバッチリ『ちゅらさん』のポスターが。
近年稀に見る“朝ドラ”の成功例であることは間違いナシ。
♪もぉ〜 だいじょぉぉぶぅ し〜んぱぁいないとぉぉぉ

  

天気良さそうでしょ?
実際、天気自体はそう悪くなかったんだけど…
風もそれほど強くない気がしたんだけどなぁ…

   

やっぱり宮古の海の色ってビックリするくらい青い!
これは前浜ビーチ付近かなぁ?
砂浜の白さも際立っておりますね〜♪

   

畑が織り成すやさしいパッチワーク。
これまた“島”らしい景観のひとつ。
奥に見えるのは伊良部島かな?

  


宮古空港内の某レストランで“宮古そば”を食す。
お味のほうは…もうちょっと頑張ってみよう!
ま、雰囲気モノってことで、ね。

  

これが“運命のチケット”。
「またあの“9人乗り”に乗れる♪」などと
脳天気に喜んでいたりして。迂闊。

  
 
 空港内のレストランから出て、搭乗ロビーに入ろうかと思ったそのとき、頭上で「カタタタタ」という音が聞こえた。
 何かと思って音のするほうを見ると、飛行機の発着状況を知らせる表示板の表示が変更される音だった。
 ……!! “12時5分発・多良間行”って、これから俺が乗ろうとしてる飛行機じゃんか。それが、何?12時50分発に変更?!おいおい、そりゃあ無いだろうよぉ〜。
 一瞬、「やっぱり台風の影響か?」と思う。でも…
 と、空かさずアナウンスが多良間行の便の出発が遅れることを告げた。う〜む、どうして遅れるんだろう?でも、窓の外を見てもそんなにひどい風が吹いているとは思えないんだけど…
 と、再び表示板が「カタタタタ」と音を立てはじめた。今度は何だ?!……へっ?!
 それは、14時35分発の“宮古発・那覇行”の飛行機が欠航になったことを知らせる表示だった。エエッ?!那覇にさえ飛行機が辿り着かないぐらい天気が悪いってこと?そんなアホな。くどいようだけど、風だってそんなに吹いてないし、それに空はまぶしいぐらいに青いじゃないか。それに、14時35分発の前に、13時ちょうど発の那覇行があるじゃないか。そっちは定刻通りに飛んで、2時間以上時間に余裕がある便の欠航が先に決まるって、どういうことサ?
 「14時35分発、那覇行の欠航をお知らせいたします。514便、14時35分発那覇行は、飛行機の機械故障のため、欠航となりました…」
 機械故障?…ダメじゃん!JTA! ハッキリ言って、JTAってこういうの多すぎないか?たま〜にしか利用しない僕でさえ、何度かこんな憂き目に遭遇してるぞ!ちゃんと整備とかしてんのか?「飛行機だってテーゲーテーゲー」ってわけには行かないんだぞ!分かってんの?!
 …僕は、何の根拠もない“JTA崇拝”のようなものに捕らわれ過ぎていたのかも知れない。♪伊東に行くなら ハ・ト・ヤッ♪よろしく♪離島に行くなら J・T・Aっ♪などと無意識のうちに決めて掛かっていた。「あの機内誌の名作『Coralway』を発行してる航空会社だから…」というのも、僕を「JTAって最高!」と盲目的に信用させている要因なんだけどもさ。でも!そんな迷信とはオサラバさ!今度離島に来るときは、ANA系の会社を使ってやる〜!!あ、そう言えばRACだってJTAと同じくJAL系列の航空会社じゃん。だからダメなんだな、RAC!時間通りに飛ばしやがれってんだ!遅れてんじゃねぇぞ、コラァ!!
 
 などと、すっかりひとりで盛り上がってしまったワタクシ。JAL関係の人が聞いたら悲しむ(もしくは腹を立てる)ような独り善がりな暴言を心の中で吐きまくり。でも、そんな僕にさらなる天罰が下される。
 三度表示板が「カタタタタ」と動く。…ありゃりゃ、俺様の乗る多良間行の便が、プラス30分遅れの“13時20分発”に変更去れちゃったッス…
 僕はこのとき、「もう多良間に行くのはあきらめて、宮古を周ろうかなぁ。それとも、那覇に戻って本島を周ってもイイかなぁ…」と少し迷った。飛行機のことでこれ以上ヤキモキさせられるのは御免だった。時間を潰そうと空港の中の売店をブラブラと覗きながら、頭の中で「もしも多良間に行くのを中止にした場合は…」などと、アレやコレやとシミュレーションしてみたりもした。
 ―― 思えば、ホントにそうしておけば良かったのかもしれない。が、そんなふうに迷っているうちに、多良間行の飛行機が何とか宮古を出発する時間になった。僕は、何となくイヤな予感に苛まれつつ、“空飛ぶワゴン車”に乗り込んだのだった。

 飛行機が宮古島を出発し、多良間島へと向かう。それは同時に、僕の体験することになる“アリ地獄”への旅立ちをも意味していた、なんてことを、僕はまだこの時点では気づいていない。
 ただ、飛行機に僕が乗り込んだ途端に、飛行機のドアがまるで自動ドアのように「バタン!」と大きな音を立ててひとりでに閉まったとき、思いのほか風が強いのだということをはじめて知った。ドアの閉まる音を聞いて、操縦士が、ドアとそのすぐ横に座っている僕をジロリと厳しい目で見た。僕はその視線にタジタジとなって、「ドアを閉めたのは俺じゃない!犯人は風です!」という表情をして無言で無罪を訴えたのだが、後から思えば、あのときの操縦士の厳しい視線は恐らく「ドアが閉まるほどの風の中で飛行機を飛ばすのは、かなり危険かも知れない」という啓示めいたものを、彼が受け取ったからだったのだろう。
 …とにかく、飛行機は僕を乗せて多良間へと飛び立ってしまった。
 

げげっ!さっそく45分遅れかよ!
イヤな予感が脳裏を掠めた瞬間でもある。
…いっそのこと、飛ばなかったほうが良かった…?

  

暇つぶし中に見つけたアヤシイ食品・その1。
America産まれの激辛ガム。ホワイトニング効果つき。
フォー・ア・ブリリアント・スマ〜イル!

  

空港で見つけたアヤシイ食品・その2。
おフランス産のチョコサンド・ビスケット。味はまあまあ。
…しかし、なぜ宮古でおフランス?

  

空港の展望デッキから見た宮古の風景。まずまずの天気。
…ここで留まってさえ居れば…
後悔先に立たず。

   

宮古から那覇に行くオバァ3人組。
おめかししております。
仲良く菓子パンを食べてました。

   

宮古特産品・黒糖Tシャツ!
そんな特産品があったなんて初耳!
…ちょっと着るのは恥ずかしいんじゃなかろうか。

  

さらに遅れるRAC。
これ以降の便は欠航になったと、後で聞かされた。
そうと知ってりゃ乗るわけないだろ!

  

そんな事情を知る由もなく、意気揚揚と出発♪
多良間での“二日間”に思いを馳せつつ…
が、実際にはその2倍も“幽閉”されることとなろうとは…

  
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