久米島
〜4月22日・その3〜


 空腹に耐えかねて山から下りた僕は(…って冬眠から目覚めた熊じゃあるまいし)、仲里村役場のすぐ目の前にあった『さんぼ』という店に入ることにした。
 表の看板には“そば処”と銘打ってあった。と言うことは、当然この『さんぼ』の自慢のメニューは“そば”と言うことになるのだろう。
 
 時刻は午後1時を少し回った頃。店内は地元のお客さんでほぼ満席状態だった。僕は店内の一番奥に空席を見つけ、そこに座った。
 そうこうしている間にも、何だか驚くぐらいにお客さんが次々と店に入ってくる。…間違いない。この『さんぼ』、実はかなりの実力を秘めた店と見た!仮に、「この辺りには他に店が無いから…」という理由でお客が多いのだとしても、肝心の料理が美味くなければ、これほど来店者が引っ切り無しに訪れるはずがない。期待は高まる。
 店員さんが、水とメニューを持ってやって来た。僕はメニューを見る。…う〜ん、値段もなかなか良心的だ。品数も結構多い。さぁ〜て、どの料理を頼もうかなぁ…
 少し間があって、再び店員さんが僕のテーブルにやって来た。「お決まりですか〜?」
 僕はとっさに「え〜っと、じゃあ、“ポーク玉子定食”を!」と注文した。
 …ハッ!何やってるんだ、俺は〜!この店は“そば処”だって言ってるのに!頼むのがポーク玉子じゃあ“料理が美味い店”なのかどうか分からないじゃないか!もう大失敗!
 僕が激しく後悔しているうちに、店員さんが「ポークひとつ〜!」と厨房にオーダーを入れた。万事休す。
 
 しかし、それから数分後、目の前に“ポーク玉子”がお目見えすると、「やっぱり俺の選択は間違っていなかった♪」と納得せざるを得なかった。
 つやつやに輝く黄色い卵焼きと、少し赤みを帯びた焼き色に包まれたポーク…なんと官能的な色具合なのだろう。ウットリ…
 もうこうなってしまえば、ここが“そば処”だろうと“甘味処”だろうと構いはしない。今、世界は僕とポーク玉子のためだけに回転している!何だったら、僕はポーク玉子と共に地球を7回半周ってもOKだぜ!それって光速じゃん♪ってな勢いだ。
 僕は心の底から歓びを噛みしめつつ、ポーク玉子を噛みしめた。神様、こんなステキな食べ物をこの世に創ってくれて、どうもありがとう!!『さんぼ』の厨房の人も、どうもありがとう!!そして豚とニワトリ、どうもありがとう!!
 
 …それこそ光速のスピードで、一気に食べ終えてしまった。いやぁ、満足&満腹。
 僕は思いを込めて「ご馳走様!」と言い残し、もちろん代金も支払って、店を出た。
 さ〜て、気合い充分だ。じゃんじゃん久米島を見て周っちゃおう!!
 

『そば処・さんぼ』。なんか喫茶店みたい。
…しかし、この店名の由来は?
“チビ○ろサンボ”か?…それはマズいやねぇ(^_^;)


  

イェ〜イ!ポーク玉子〜!
てんこ盛りのライスもうれしいじゃないか♪
お吸い物も美味かったよ。


  

 レンタカー屋でもらった地図を広げてみると…そう遠くないところに“真謝のチュラフクギ”なるものがあるらしい。
 チュラ(=キレイな)フクギ、と言うぐらいだから、さぞかし素晴らしいフクギの並木道があるんだろう。僕はワクワクしながらチュラフクギを目指した。
 
 しばらく行くと、前方の道の中央分離帯の部分に、フクギがこんもりと茂っているのを発見。これが“チュラフクギ”だな。
 僕はフクギの並木を右手に見ながら車を走らせた。
 …え?もう終わり?
 その間、おそらく10秒と掛からなかっただろう。フクギの並木は50m弱ほど続いていたが、突然跡形もなく途切れてしまった。
 …まさかこれで終わりってことはないだろう。そう思ってもう少しそのまま先のほうまで走ってみたのだが…もう僕の行く手にそれらしき並木が現れることはなかった。
 オイオイ、そりゃないぜセニョール。僕は強引にUターンして、再び“チュラフクギ”まで戻ってみた。やっぱり何度見ても、よ〜く見ても、“チュラフクギ”はこれでおしまいのようだ。
 正直言って、これにはかなり拍子抜けしてしまった。こんなに短いなんて…ついでに言うと、この並木のどの辺りが“チュラ”なのかも僕には今ひとつ理解できなかった。植物に疎いせいかもしれないけど。
 
 このフクギ並木のすぐそばに、“宇根の大ソテツ”というものがあるらしいのだが、急に見る気が失せてしまった。デカいソテツを見てもなぁ…という気分だった。いっそのこと“直径1mのハイビスカス”とか、“一株に300輪の花をつけるブーゲンビリア”とか、そういうモノスゴイ植物を品種改良で産み出してみてはどうだろう?
 少なくとも“チュラフクギ”以上に話題にはなるだろうと思う。…ごめんね、フクギには何の罪も無いんだけど。あまりにあっけないからさぁ…チュラフクギが…
  

“真謝のチュラフクギ”。約40mのフクギ並木。
車で通るとまさにあっという間!
ちょっとあっけないよね、この長さは…

   
  

“チュラフクギ”を抜けたところにあったスーパー。
案外大きな個人スーパーでした。
タバコと缶コーヒーを買ってみました。


  

 “真謝のチュラフクギ”から、さらに先へと進んで行くと、次に見えてきたのが断崖の上に迫り出した半円形の展望台だった。
 ここは“比屋定バンタ”だね。ちなみに“バンタ”ってのは“断崖”を意味する言葉。文字通り、ここはかなりすごい断崖だ。
 展望台には、年配の女性2人組と、若い女性2人組が居た。年配コンビは展望台に設置されている望遠鏡を覗き込んだりしている。一方の若者コンビは…髪の毛が濡れている。と言うことは、きっと海水浴かダイビングでもした後なのだろう。…って、まさかここで?!この断崖絶壁から?!…そりゃ無いよな、いくらなんでも。
 2組の女性コンビは、少しの間展望台でウロウロとしながら崖の上からの眺めを見ていたが、ほとんど同時にその場を去って行った。
 ひとり残った僕は、展望台からちょっと脇へ降りたところから崖の下に広がる大パノラマに見入った。人が居るときにこんなことをしたら「あの人、飛び降り自殺でもするんじゃないかしら…」などと不吉な予感を勝手に抱かれそうで困るし。
 しばらく僕はぼんやりと海を見ていた。すると、だんだん天気が良くなってきていることに気づく。さっきまで灰色一色だった海原が、いくらか青く見えてくるようになっていた。雲の切れ間から強い陽射しが見え隠れする。
 よ〜し!その調子だ!そのままグングン回復してくれ、天気よ!
 
 僕が空に向かって、効力があるのかどうか定かでない“念”を送っていると、展望台にまた新たなお客がやって来た。
 ひょいと覗き込むと、そこには若いカップルが居た。このカップル、実は僕が那覇から乗ってきた飛行機に一緒に乗っていたカップルだった。搭乗口から飛行機に移動する送迎バスの中でやたらとイチャついていて、密かに「感じ悪ぅ〜」と思っていたのではっきりと覚えていた。
 カップルが展望台から眼下を覗き込むと、いきなり女子のほうが「ヤダ〜!こんな高いところ、アタシすごく苦手なの!」と尻込みし始めた。
 「なんだよ、大丈夫だよ〜。もっと手前に来なくちゃよく見えないだろ〜?」 そう言って男は嫌がる女子を面白がって、手をグイグイと引っ張るようにして女子を展望台の際まで連れて来ようとする。「ヤダ〜!ヤダ〜!」と絶叫しながら腰を落として抵抗する女子。
 「ほら〜、平気だって〜」 「やめてよ〜!イジワルしないでよ〜!」
 …一生やってろ!僕は展望台の脇から離れ、車に戻った。カップルは思いもかけないところから僕が飛び出したので一瞬ギョッとして固まっていたが、すぐにまた「来いよ〜」「やめて〜!」を繰り返しはじめた。
 まぁどうでもいいけど、ふざけてうっかり崖から落下、なんてシャレにならない事故だけは起こすなよ。と思いながら、バンタを後にした。
 

“比屋定バンタ”の展望台。
結構広めの駐車場も完備。
だんだん天気が良くなって来てる!


  

バンタからの眺望。まさに大パノラマ。
これで晴れていたら…と思うとちょっと残念ですけど。
しかし、風が強い!吹き飛ばされそうな勢い。


  

断崖の下には青い海。
…これで晴れてたら…ってしつこいか(^_^;)
島きっての景勝地。なるほど納得。


  

 “比屋定バンタ”のすぐ近くに、“太陽石”という石があるらしい。ちょっと寄ってみることにする。
 バンタから少し仲泊寄りに行って、海岸のほうに降りていく細い道に入って下っていくと、“太陽石”が登場。
 何でも、500年ほど昔にこの石を使って日の出の位置の変化を観測した“堂之比屋”という人物が居たらしい。その人はこの観測を参考にして、種蒔きの時期や収穫の時期などを集落の人に指導したのだという。
 確かに、この“太陽石”の表面をよ〜く見ると、薄い線が刻まれている。なるほどねぇ。
 しかし、こういうことを思いつく人ってホントにスゴイよなぁ、と思う。日々をのうのうと暮らしている僕のような人間には、絶対にマネの出来ない大発明だ。堂之比屋さん、あんたはエライ!
 理数系が苦手な僕としては、この類のことに長けた人は無条件で尊敬の対象となる。と言うわけで、この度“堂之比屋さん”も僕の尊敬する人リスト(そんなリストは作っちゃいないが)に加わることになりました。…かと言って、なんの名誉にもなりゃしないけど。
 
 “太陽石”のすぐ近くに見える集落。きっとあの集落に昔住んでいた人々は、この石と堂之比屋さんのおかげで大いに助かったに違いない。
 足を向けて眠れないね、“太陽石”に。
 って、俺が言えることじゃないけどね(^_^;)
  


“太陽石(うてぃだいし)”です。
細い小道の脇にぽつんとありました。
でも、ちゃんと駐車スペースと公衆トイレあり。


  

その公衆トイレのそばに咲いてました。
キレイだねぇ、百合。
なんだかホッとします。トイレの脇だけど。


  

駐車スペースから見下ろすと、集落が見えました。
まだ昔の風情が残る家並み。
子供が路地を駆け回ってました。


  
表紙へ     前へ      次へ