久米島
〜4月22日・その1〜


 僕は、早朝に羽田を発つ那覇行きの飛行機に意気揚揚乗り込んだ。
 が、定刻になってもなかなか飛行機が出発しない。どうやら一部のお客さんがまだ搭乗していないらしかった。
 「大変お待たせ致しました。…那覇空港には予定時刻より20分ほど遅れての到着となります…」
 機内アナウンスがそう告げる。
 
 最初、僕は“伊是名島”に行くつもりで居た。
 しかし、羽田空港から那覇ヘ向かう飛行機の到着時間が少し遅れる、という客室乗務員のアナウンスを聞いて、伊是名島行きに一抹の不安がよぎった。
 今回の伊是名島旅行の計画は、直前になって思いついたものだったので、那覇空港⇔連絡船が出ている運天港⇔伊是名島という移動手段の繋がり具合に少し無理があった。
 「まぁ、行ってしまえば何とかなるだろう」などと軽い気持ちで出発したものの、のっけから時間通りにいかないとなると、何だか急に心配になってくる。
 もしも、帰りの飛行機に乗り遅れでもしたら…それでなくても必死の思いで連休をもらっているというのに、「飛行機に乗り遅れちゃったので、もう一日休みます〜」なんてとても言えやしない。…う〜む、伊是名島行きはあまりにも冒険が過ぎるなぁ。
 仕方ない。今回は伊是名島、あきらめることにしよう。
 でも、それじゃあどこに行こうか?とにかく僕は離島に行きたかった。ここ最近の僕は“沖縄病”を通り越して“離島病”を患っている。もちろん沖縄本島も大好きだけど、それ以上に離島に心が傾きつつある今の僕。この想いをしっかり遂げるためには、やっぱり離島に行かなくちゃな!
 ま、飛行機の中であれこれと悩んだってしょーがない。那覇に着いてから決めることにしよう。…さ、一眠りするかぁ。
 
 「…お客様、お客様」
 膝のあたりをつんつん突付かれる感触がして、僕はハッと我に帰った。
 声が聞こえるほうを見ると、客室乗務員が僕を覗き込んでいる。
 「間もなく着陸しますので、シートベルトを着装してシートの背もたれを元の位置にお戻しください…」
 へ?着陸?もう那覇に着いちゃうの?…すっかり熟睡しちゃってたみたい。しかし、機内で起こされたことなんて初めてだった。かなり恥ずかしい。
 言われる通りにベルトを締めて、シートを戻す。…ありゃ?いつの間にかズボンの前が全開になってる…何故だ?まさか隣りの席の人がこんなことするわけないし…自分でやったんだな、こりゃ。俺、寝てる間に一体何をしてたんだろう…?
 例え寝ている間のこととは言え、自分のとった行動が理解できないっていうのは、ものすごく怖い。まさか、いびきをかいてたりヘンな寝言を言ったりしてないだろうな。…不安じゃん、ムチャクチャ。
 僕は猛烈なバツの悪さに苛まれつつ、那覇に到着した。

 空港の到着ロビーから、とりあえず出発ロビーに移動してみる。とにかくどこかの離島に行こう。
 沖縄の離島に行くとなれば、当然JTA、もしくは琉球エア・コミューターでしょ。僕はJTAのカウンターに行き、ダイヤ表を見る。
 え〜っと、これから一番早い時間に出発する飛行機は…あ、“久米島”行きの便だ。
 久米島かぁ…そう言えば、行ったことないよなぁ、久米島には。―― ヨシ!久米島に決定!
 僕は急いで久米島行きのチケットを購入し、そのまま搭乗口に向かった。
 

28番搭乗口。普通の搭乗口の下の階にある。
ここからバスで飛行機に移動します。
乗客数、やたら少ないです。ちょっと寂しい?

    
  

これで久米島に行きます♪
琉球エアー・コミューター(RAC)ですね。
この前乗った9人乗り飛行機よりは飛行機らしいけど…

  
  

 “久米島”と言うと、僕の中では“リゾートの島”というイメージが強かった。
 はての浜、イーフビーチ、日航系のリゾートホテル、シュノーケルやダイビングなどのマリン・レジャーなどなど…
 僕がはじめて沖縄を訪れたとき世話になった民宿の息子さんが、しきりに久米島に行くことを薦めてきたのを思い出す。
 「一週間も居るのに本島だけしか周らないのはもったいない。久米島に行くといいさぁ。“はての浜”はよくテレビのコマーシャルなんかにも使われるぐらいキレイなところだし、観光名所も意外と多いから退屈しないはず。レンタカーを借りれば日帰りでも充分楽しめるよ。でも、どうせ行くんなら二日は居たほうがいいと思うけど…」
 まるで久米島の広報担当者かのような息子さんの強力プッシュを、僕は些か鬱陶しく思いながら聞いた。
 しかし、僕はどちらかと言えば「見どころいっぱい♪」な島よりも、「これといって何もないですけど…」というような静かな島のほうが好きだったりするので、息子さんが久米島の魅力を熱く語れば語るほど、逆に関心が薄らいでいってしまう。
 …というような経緯があって、どうも久米島から足が遠退いていたわけね。
 
 とは言え、“球美の島”と謳われる久米島である。沖縄に足繁く通うようになって早8年弱の歳月が流れようとしているのに、久米島に行ったことが一度も無いなんて…これじゃあもぐりの烙印を捺されかねない(ホントか?)。
 とにかく、未だ訪れたことの無い場所に行くというのは、それだけでワクワクするものだ。
 僕は久米島行きの小さな飛行機の中で、まだ見ぬ久米島に思いを馳せる。しかも、このとき機内に置かれていた『コーラルウェイ』は、まるで狙いすましたかのように“元気な久米島”と題して久米島の特集を組んでいた。いやが上にも期待は高まる一方だ。
 …しかし、ちょっと気に掛かるのが、飛行機の窓から見下ろす本島沖合いの空模様。
 那覇空港に着いたときにはまずまずの天気だったはずなのに、久米島に近づくにつれて次第に雲が厚くなっていく。…イヤな予感がするんですけど…

 那覇を発って約30分弱。あっという間に久米島空港に到着してしまった。「えっ?!もう着いちゃったの?!」とちょっとビックリしてしまった。まだ『コーラルウェイ』の久米島特集さえ読破してないって言うのに…仕方ない、この『コーラルウェイ』は“お持ち帰り”させてもらうことにしよ〜っと♪(←いつものこと)
 久米島上空は、案の定どんよりとした曇り空だった。ちぇっ、何だよ〜、せっかく球美の島にやってきたって言うのに〜。
 ちょっとガッカリだが、天気ばっかりはこちらの都合どおりにはいかない。これから好転することを祈りつつ、僕は到着ロビーでレンタカーを手配してもらうことにした。
 レンタカーのコーナーに向かうと、カウンターに3人の係員が待機していた。どうやら久米島に3つあるレンタカー会社が、それぞれ一人づつ係員を配置しているようだった。
 …どこのレンタカーを借りようか。僕はカウンターと少し距離を置いて、心の中で「ど・れ・に・し・よ・う・か・な…」を唱えてレンタカー屋を選ぶことにした。天の神様は、O社に軍配を上げた。
 

“久米島空港”です。
想像以上に立派で新しい!少しビックリ。
…何か、宮古空港と印象がダブるかな?

  
  

到着ロビー。整然とした感じ。
でも、どうして新しい空港ってどこも同じに見えちゃうの?
デザインしてる人が一緒とか、そういうこと?


  

 O社の営業所まで、送迎バスで連れて行ってもらう。O社の営業所は島の向かって左側、具志川村の仲泊という地区にあるらしい。
 送迎バスの窓から見る久米島の風景は、僕が勝手に想像していた“リゾート・アイランド”の印象とはまったく違っていた。確かに海は見えるのだが、それよりも周囲を囲む畑と、その合間合間にときどき見える民家の佇まいが、いかにも離島のそれだったので、僕は何だか無性にうれしくなってきた。
 さらに、営業所のある“仲泊”の辺りが見えてくると、僕のうれしさはさらに確実なものになった。
 こんなことを言うと、久米島にお住まいの方は気を悪くされるかもしれないが、何となく寂れていてくすんだ感じの町並みと、辺りを取り巻く暮らしの匂いがたまらない。僕はすっかり仲泊界隈に一目惚れしてしまった。
 …やっぱり俺はリゾートってタマじゃないのかもしれない。ビーチでオシャレにカクテルなんぞ飲むよりは、こういう町の居酒屋なんかで生ジョッキと泡盛をチャンポンで飲んでたほうが性に合ってるしさぁ。
 
 そんなふうに仲泊の町にすっかり心奪われているうちに、O社の営業所に到着。さっそくレンタカーで久米島巡りを開始することにした。
 ホントは島を巡るよりも、この近所をうろうろとほっつき歩きたいところなんだけど…楽しみは後に取って置こう♪
 さて、それじゃあこれからどこへ行こうかなぁ。レンタカー屋でもらった地図を開いて見る。
 …やっぱり、せっかく久米島に来たんだから、“イーフビーチ”の辺りには言っておくべきかな。天気悪いけどねぇ…天気の悪いときにビーチに行くってのも、何だか虚しいような気もするけど…
 とりあえず、僕は島の東側を目指して車を走らせることにした。

 と、O社の営業所からそれほど離れていない“兼城”という辺りで、妙な趣き(?)のある建物を見掛けた。
 『久米島観光ホテル』…ホテルかぁ。しかし、ずいぶんと「どんより」とした建物だなぁ。一瞬廃墟かと思っちゃったよ…(ホテル関係者の方には申し訳ないけど)
 そうだ!今晩はここに泊まることにしよう!ここだったら仲泊の繁華街(と言っていいのかどうか…)にも近いし、なによりもホテルそのものが「何か出て来そう…」な雰囲気満点で面白そうだし。
 僕はホテルに飛び込んで、部屋を取ってもらうことにした。ホテルの入り口には「歓迎 ○○ツアー御一行様」というような札が3本ほど掛かっていた。う〜む、そう言えばこのホテルって宿泊料、幾らぐらいなんだろう?ひょっとして、案外高級なホテルだったりして…
 しかし、僕はこのホテルに泊まりたいのだ。ロビーに入って、その気持ちはさらに強固なものとなっている。どこまでも垢抜けないこの雰囲気!奥のほうに見える通路の薄暗い感じ!革張りのソファーのくたびれ具合!ロビーから筒抜けの古臭い“ゲームコーナー”!ほぼ完璧と言っていい。
 僕は部屋を予約して、すっかり満足した気分で車に戻り、島巡りを再開させることにした。
 …車の中で、僕はつくづく自分がリゾートとは完全に無縁な人間であることを、イヤというほど噛みしめる。
 って言うか、リゾート云々という以前の問題って気がします。どうせだったら、もっと人情溢れる民宿とか、こざっぱりとしたビジネスホテルとか、選択肢はいくらでもあるだろうに…
 どうも心が奇抜なものを求めてしまうのは、僕が日常生活に疲れと嫌気を感じている証拠なのかもしれない。
 な〜んてね。さ、とにかく、こんな僕でもリゾート気分を味わえるかもしれない、イーフビーチ界隈へレッツ・ゴー!
 

久米島の西側の繁華街。
このややひなびた感じに一目惚れ♪
…僕はヘンなのでしょーか?


  

“白瀬川”河口付近。
まるで夕方のような写真ですが、まだお昼頃です。
天気、良くなってくれないかなぁ…


   
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