こころの時間 其の八

 ≪建長寺≫

 再三出て来た“鎌倉五山”の第一位の座を与えられた、格式高い寺、建長寺。“日本最初の禅寺”だったりもするのだ。とにかく厳格な禅宗の道場として建立された、質実剛健を絵に描いたようなお寺なのである。
 『円覚寺』も敷地の広いお寺だけど、ここ建長寺の広さもかなりスゴイ。境内の一番奥にある“半僧坊”まで徒歩で30分近くかかる。その“半僧坊”から先には“天園ハイキングコース”があるので、足に自信のある人だったらそのまま山の中まで歩いて行ける。(僕は遠慮したいけど)
 さすがに鎌倉屈指の大寺院とあって、山門の立派さはちょっと鎌倉の他の寺との比にはならない。威圧感のようなものも感じたりする。臨済宗建長寺派の総本山だけのことはある。さっきの『浄智寺』とは打って変わっての風格に、一瞬たじろいでしまう。
 …とは言っても、それだけ立派な寺ともなれば当然観光で訪れる人もたくさん居るわけで、境内は結構賑わってたりする。そういう意味ではむしろ境内の雰囲気はかなり緩い。かえって小さな寺のほうが畏まった気分になるのかも。
 ガイドさんの案内や解説を受けて観光する人、スケッチする人、写真を撮る人、修学旅行生、カップルや親子連れなどなど、さまざまな人が境内で過ごす。
 「あの〜すみません、写真撮ってもらっていいですか?」
 そう僕に声を掛けてきたのは、まったく今どきな感じの20代前半の茶髪カップル。建長寺でデートとは、ずいぶんと渋いなぁ、見た目に依らず(^_^;)
 
 ところで、この建長寺というのは、いろいろと興味深い由来を持つ。
 かつてこの辺り一体は“地獄谷”と呼ばれていて、その昔は風葬(まぁ、大昔はみんなそうやって葬られたことが多いんだけどね)の地だったり、処刑場だったりした場所。で、後にそこに死刑人の菩提を弔うために『心平寺』というお寺が建ったらしい。その寺が祀っていたのがお地蔵様。やがて心平寺は朽ち果てて廃寺となり、地蔵堂だけが残された。建長寺創建のときに、この地蔵堂に祀られていた地蔵尊を仏殿に安置した。…という話。
 確かに、建長寺のご本尊は禅宗の寺では極めて珍しい“地蔵菩薩像”。禅宗の本尊と言えばお釈迦様が一般的なんだけど、ここの仏殿には大きなお地蔵様が鎮座ましましているのだ。
 鎌倉って、こういうエピソードに事欠かないよなぁ。合戦場だったりもしたし。だから心霊話なんかが多いのかも…
 
 それともうひとつ。建長寺の鎮守っていうのがこれまたちょっとユニーク。この半僧坊については、もうちょっと後で。
 


建長寺総門。
大仏や八幡宮と並んで外せない観光名所。
でも、境内は案外地味です。禅寺ですから。

  

広〜い境内。
かつては50近い塔頭があったらしい。
今の伽藍は江戸時代に再建されたもの。

  

山門はとても立派で勇壮。
記念写真撮影にはもってこいのスポット。
…でも、デカすぎでフレームアウトしちゃうか?

  


シルバーボランティアのガイドさんが山門を解説。
それを熱心に聴く観光のお客さんたち。
ノートを取る勉強家な人も居る。

  


仏殿です。
修学旅行生がはしゃいでました。
う〜ん、もう遠い昔のことだなぁ、修学旅行…

  

見づらいですけど、これがご本尊。
お地蔵さんなんですよ、これ。デカいけど。
建長寺建立の由来ともなってる珍しい菩薩像。

   

ここの境内は実に解放感がある。
これは“方丈”。
方丈ってのは住職・長老僧が住む場所、という意味。

  

方丈の内部。あ!あれは住職さんか?
いやいや、違います。
お供えをしに来た若いお坊さんです。

  

 建長寺境内の一番奥にある“半僧坊”。ここには天狗像と、それに附き従う10体の烏天狗像がある。何でも明治23年、当時の住職さんが霊夢(悪夢じゃないよ)を見て、静岡のお寺から守護神(鎮守)として勧請したんだそうな。
 とにかく、奥へ奥へとズンズン進む。これが結構いい運動になる。言い換えれば「遠い」ってことなんだけどね。と、道はやがて鳥居にぶつかる。「お寺なのに鳥居?」などと一瞬疑問に感じたりするのだが、それ以上にこの辺り一体を包む空気が、それまでの境内の開放的な雰囲気から一転し、急に怪しげになるのがスゴイ。心なしか妖気孕んでませんか?ってな感じ。
 そんな鳥居をくぐると、延々と続く階段。ただでさえここまで来るのに結構な距離を歩いている上に、さらにこの階段を上るのはちょっとしんどい。
 でも、やがてそんなことを忘れてしまうような光景が出現する。
 階段の終点が近づいた辺りで、まるで来訪者を歓迎しているかのように登場する、10体のキュートな(?)烏天狗たち。各々にポーズを決めて揃い踏みで佇む姿は、まるで宝塚のレビューを見ているかのよう。何度来ても、やっぱりこれって何だかちょっと笑える光景だと思うんだが、僕以外のお客さんはみんな普通の顔をしている。…“東京湾観音”を訪れたときのことを思い出してしまった。こんなことで喜んでる不謹慎な人間は、僕一人だけってこと?
 そんな烏天狗たちを従えて、頂点で見栄を切るのは天狗像。それを眺めつつ本堂へと向かう。
 “半僧坊”というぐらいだから、ここに祀られているのは当然“半僧坊大権現”。天狗伝説の由来のひとつでもある、不思議なおじいさん。本堂の中には、大きな団扇や下駄も安置されてて、これまた面白い。
 などと面白がってばかりいるのも失礼だと少し反省し、心を入れ替えてお参りする。何しろ半僧坊大権現様は火の災い除け、厄除け、財運上昇、長命などご利益た〜くさん!侮っちゃいけませんね。
 
 この“半僧坊”のさらに奥へ行くと、“天園ハイキングコース”という山道の入り口に辿り着く。ここからの眺望がこれまた素晴らしいらしいのだが、僕は入り口を少し入ったところで進むのをやめて、そのまま来た道を戻り、そろそろ東京に戻ることに。
 


鬱蒼と生い茂る木々で仄暗い“半僧坊”入り口。
辺りに漂う不思議な空気に圧倒。
お寺に鳥居ってのも考えてみればヘン。

  

鳥居をくぐると階段が伸びています。
階段の沿道には幟がしつこくはためいてます。
夜に来るのはイヤだねぇ。(って開いてないよ)

  

幟ってのは奉納されたものなんだよね。
一枚一枚がイコール奉納金、ってなわけだ。
そう思うと、ちょっと価値観が変わったり(^_^;)

  

この石碑もまた奉納金を納めた人を記したもの。
「金壱阡圓也」…昭和初期の1000円ですからねぇ。
こんな石碑がいくつも建ってる。

  


出ました!天狗オールスターズ!
あっちにも烏天狗、こっちにも烏天狗。
彫刻の森美術館かと思うほどに。

  

ほら、口のところがカラスでしょ?
しかし、この発想は一体どこから来たものなのか?
羽根が何だか天使チック。

  

みんな違うポーズをバッチリ決めてます。
いわゆる“戦隊もの”を彷彿とさせるような。
ミドレンジャーはどこだ?(←古いし)

  

今にも殴りかかりそうな物騒なポーズ。
実際にこんな生き物が居たらちょっと怖い。
でも、天狗の後ろ姿って貴重かも(?)

  

こちらはノーマルバージョンの天狗様。
ヤケに風格があって、ちょっとカッコイイ。
ヒゲも立派ですし。

  


これが“半僧坊”の本堂。
絵馬がびっしりと掛けられてます。
霊験鮮(あらた)かな権現様で御座います。

  

「半僧坊様のご利益を戴く祈願の言葉
おんなんのちりちりそわか」
…ちりちり。

  


これが半僧坊の真の姿?
実に不思議な翁だったそうな。
鼻がデカい。これが天狗へと繋がるわけね。

  

“半僧坊”の裏手に伸びるハイキングコース。
ここまで来る時点ですでに大変なのに…
この先さらに山道を?僕には無理です。

  


でも眺望はなかなか素晴らしいです。
手前に山、遠くに海。
鎌倉の豊かな自然が一目の下に!

  

 久しぶりに鎌倉の神社仏閣三昧を堪能した二日間。とは言え、まだ周りきれなかった場所もあって、正直言ってまだ名残惜しかったりもする。
 「何だかここ最近、いろいろと疲れちゃってるなぁ…」と感じるとき、そんな疲れを癒す方法は人それぞれにあるだろうし、僕個人のことに限ってみても、そのときの状況によって幾つかの手段はある。幸い、東京から鎌倉までは電車で気軽に移動できるし、それでいて日常では味わえない風情や情緒を楽しむことが出来る。これはとてもありがたいことだと思う。
 子供の頃からの鎌倉好き、神社仏閣好き。本気で「お坊さんになりたい!」と思っていた小学生は、今やすっかり世俗にどっぷりとまみれ、ときに平気で毒を吐くようなろくでもない三十路男となってしまいました。ごめんね、昔の俺。
 そんな世俗まみれの僕は、寺巡りですっかり疲れてしまい、帰りの電車では「ちょっとでもラクしたい」とばかりに、迷うことなくグリーン車に乗ってしまったわけです。
 

帰路