こころの時間 其の七

 ≪浄智寺≫

 鎌倉五山第四位の臨済宗の寺院。…と、これで鎌倉五山第五位から第二位までのお寺は、とりあえずひと通り押さえたことになる。べつに「五山を全部制覇してやるぞ!」などと意気込んでいたわけじゃなく、単に好きな寺を回っていたらいつの間にかそういうことになっていた、というだけのことだったりする。

 ここ『浄智寺』は、他の鎌倉五山の寺と比べると、周囲の雰囲気も境内の趣きもグッと落ち着いていて、「あ〜、こういうのを侘寂(わびさび)っていうんだろうなぁ…」と思わず納得。…もっとも、「本当の侘寂ってのがちゃんと分かっているのか」と訊かれれば、「う〜ん…正直言うとよく分かんない」と答えるしかないんだけどね〜(^_^;)
 緑深い谷戸の奥に、総門と石段が見えて来る。その石段の磨り減り具合。段の頂に建つのは、余計な装飾が排された鐘楼風の山門。境内の庭はとてもやさしい雰囲気に包まれていて、簡素な仏殿や漆喰壁と絶妙のコントラストを醸し出す。境内の裏手にある林の中には石仏がひっそりと安置され、聞こえてくるのは葉が風に擦れる音と鳥の鳴き声だけ。
 先ほどの『円覚寺』のような広い寺も、それはそれで散策するには絶好の場所なのだが、心静かに風情を味わおうというのなら、断然この浄智寺のほうがオススメだ。実際、僕はこの寺をちょくちょく訪問する。林に埋もれるような浄智寺をゆっくり歩いていると、静けさの中に自分がすっぽりと収まってしまうような気分になる。
 まさしく質素。質素であるが故、広くて深い。あらゆる便利なもの・世俗的なものが無粋で鬱陶しく感じられるぐらいに。…って、これは言い過ぎかな?
 僕のような世俗にまみれて生きている人間の都合のいい思い込みでさえも、蔑まずにどっしりと受け止めてくれる、そんな場所のように思えて、ここに居るだけでほんのりと幸せな気持ちになれる。
 
 などと利いた風なことを気取って語りまくる僕ですが、これもまた浄智寺の古刹ぶりの成せる技、ということですね。
 今回は行くことが出来なかった『瑞泉寺』と並んで、僕の最も好きな鎌倉の寺・浄智寺。花が咲き木漏れ日のやさしい春も、光陰がくっきりと冴える凛とした夏も、木々が色づき空気が澄み渡る秋も、静寂と簡素な世界が一層際立つ冬も、いずれの季節にも替え難い魅力がある。
 かつては20を越える塔頭を持つ大寺院だったという浄智寺。今はその面影すら残っていないけど、長い時間の流れにあっても変わらないものが確かに存在している、と実感することが出来る場所だと僕は思う。
 

まるで山寺のような浄智寺総門の佇まい。
実際には幹線道路からそれほど離れてないけど。
石段の手前には池と井戸があります。

  


総門をくぐって山門へ。
石段の磨り減り具合がまた良し。
この時点ですでに世界に入ってます、俺。

  

…やや雰囲気ぶち壊しな立て看板…
お坊さんによる手書き?
いろんな仕事があるんだね、お坊さんにも。

  


かまれることがあるのか!
そりゃあ注意しないといけません。
あの前歯で噛まれたら、かなり痛そうだし。

  

浄智寺山門。
中国風の楼門形式だそうです。
この寺の記念撮影スポットでもあります。

  


仏殿“曇華殿”(どんげでん)。
やたらと趣きがあります。
漆喰と木が放つ質素なオーラ。

  

本殿の裏手にある庭の辺りから。
茅葺き屋根がイイ味出してます。
どこかの山村にでも来たみたいな気分に。

  

芝に落ちる椿の花。
そこはかとなく諸行無常な気持ち。
こういうのは日本的なメンタリティかもね。

  

決して派手さはないけど、良い庭です。
何だかホッとしたりします。
柄にも無く花なんかしみじみ眺めちゃったり。

  

裏庭の奥にあるやぐらに立つ布袋尊。
これ、結構大きい。人の丈ぐらいあります。
布袋さんの背後には菩薩像も隠れてます。

    

境内の奥には墓地と雑木林。
辺りには濃密な静けさが漂います。
日頃忘れかけている静寂。

  

子供を抱えた菩薩の石仏。
何気ない石仏にも心癒される感じ。
…俺はじいさんか?

  

仏殿に安置される阿弥陀・釈迦・弥勒の三世仏。
台座から法衣が垂れた中国風な仏像だそうな。
仏様揃い踏み、ってな感じですね。

  

総門の手前にある池。
藻の色さえも目に沁みるような。
秋には散った紅葉が浮かんで、これまた風情あり。

  

 いやいや〜、すっかり浸りきっていたら、何だか腹が減ってきた。…ま、何だかんだ言っても食欲は寺社巡りだけじゃ癒せないし。さっきまでやれ侘寂だの質素だのと言ってた僕だったが、結局「花より団子」な卑しい根性が露呈しております。
 幸い、北鎌倉から『鶴ヶ岡八幡宮』へと続く鎌倉街道沿いには食事処が結構多く並んでいるので、食べ物に在りつくには苦労しない。
 ホントは精進料理なども食べたかったんだけど、財布の具合と相談した結果、街道沿いにある『みつは志』というそば処で食事を摂ることにした。
 この『みつは志』って、確か小町通りにも同じ名前のそば屋があった。もしかするとこっちは支店かもしれない。
 比較的こじんまりとした店内には、5〜6人の家族連れが先客として居た。会話は関西弁。観光で訪れたみたいだ。ちょうど料理が出て来たばかりのタイミングだったらしく、「あ、おいしいなぁ、このうどん」などと料理の感想を呟いたりしている。…うどんかぁ。そばを食おうかと思ってたんだけど、うどんもイイかもねぇ。
 が、注文を訊かれるとつい反射的に「天ざる!」と答えてしまうのだった(^_^;) 好物なのさ、天ざるが。子供の頃から無類のそば好きだった僕にとって、「いつか大人になったら“天ざる”を思いっきり食べてやる!」というのが、ささやかな夢だった。というのも、僕の両親はもっぱら“もりそば”or“ざるそば”専門で、「天ざるなんて贅沢品だ!贅沢は敵だ!」というようなケチケチな主義を貫く人たちだったんだよなぁ。…確かに天ざるは贅沢品かもしれないけどさぁ。
 
 なかなか上等な天ざるを堪能して、程好く空腹も満たされた。では、そろそろ今回の鎌倉巡りの締め括り、『建長寺』に向かいますか!
 

『みつは志』は『建長寺』のすぐそばにある。
この周辺は料理屋さんや甘味処が結構あります。
食いしん坊バンザイ!

  

天ざる。これさえあれば僕はホクホクです♪
ホントはこれに日本酒なんかがつくと完璧!
…でも、さすがにこんな昼間からは…

  

住宅の切れ目に建ってた祠(ほこら)。
祠には藪(やぶ)と林がよく似合うよねぇ。
ビルの屋上なんかに建ってたりすることもあるけど(^_^;)

  

帰路                  順路