こころの時間 其のニ

 あ、そう言えば話は前後してしまうが、この日僕はJR鎌倉駅のすぐ隣りにあるレンタサイクルで自転車を借りて、鎌倉の街を散策した。これがなかなか便利なんだよねぇ。
 歩いてあちこちのお寺を観て周るとなると健脚な人じゃないと少々キツいし、バスでの移動も思ったよりも効率が悪い。ましてや自動車なんてかえって不便。駐車場の無いスポットも多いし、第一鎌倉の道は往々にして狭い。ついでに海沿いの国道134号線や八幡宮前を通る金沢街道は、時間帯によってはウンザリするほど大渋滞する。僕の個人的な見解としてはレンタサイクルで風を切って散策、というのがイチオシ♪…ただし、さっきも言ったが鎌倉の道はどこも狭いので、自転車で走るのにちょっと難儀する箇所もあったりする。人や車の往来も意外と多かったり、歩道と車道の境界が曖昧な道も結構ある。でも、鎌倉は思ったよりもアップダウンが少ない街なので、かなり有効な移動手段だと思う。
 この日の鎌倉は、初夏を思わせるようなポカポカ陽気。静かな街並みを自転車で走っていると、何だかこのままどこまでも走って行けそうな気がする…あ、うっかり目的地を通り過ぎるところだった!
 

駅のすぐ横にあるレンタサイクル。
1日借りると1500円。
ちょっと自転車はボロいが、かなり重宝する。

  

僕が借りたママチャリ。
漕ぐと何だかシーカーシーカーとうるさい。
それ以外はなかなか快適でした。

  

 ≪杉本寺≫
 
 “十一面杉本観音”と書かれたたくさんの白い幟(のぼり)が目印の、鎌倉で最も古いお寺。しつこく幟に書かれてあるように、ここには十一面観音が三体安置されている。
 このお寺には苔(こけ)の生す石段がある。苔生す石段と言えば『妙法寺』が有名なんだけど(ここの石段はスゴイ!)、杉本寺の苔の石段もなかなか素晴らしい…んだよ、夏はね。今はまだ残念ながら石段に苔はあまり生えていなくて、「これってただの崩れかかった石段じゃん…」といった感じでしか無い。
 …考えてみれば、今の時期って中途半端なんだよなぁ。冬の植物の見頃はもう終わっちゃってるし、かと言って春の花の咲く時期には早すぎる。桜だってまだ咲いてないし。
 十一面観音が安置されている本堂は、茅葺き屋根のどっしりとした建物。さすがは鎌倉最古の寺だと思わず納得。
 それにしても、ホントにポカポカとした良い天気で、境内のベンチに座ってぼんやりとしていると、だんだん眠くなるほどだ。こんなふうにのんびりとした寺巡りが二日間も続くなんて…しあわせだなぁ〜。
 …32歳にして、すっかり枯れたようなことを言ってますが。って言うか、これはもう子供の頃からずっと同じなので、俺は子供の頃からすでに枯れてる、ってことかもしれない…べつにイイけどね。
 

幟がはためく杉本寺。
急な石段を一気に上ります。
お寺巡りは意外と体力を要するレジャーかも?

   

立派な仁王様。
山門におわしまする。
いわゆるマッチョ体型っていうんですか?

  


山門に激しく貼られている千社札。
「無断で千社札を貼らないでください」の注意書きが…
どれが無断で貼った札なんだろう…

  

本堂の手前にある祠。
脇にある池には鯉が泳いでます。
…これは一体何を祀った祠なんだろうか?

  


こちらが本堂。重厚感があります。
この中に十一面観音が安置されている。
…それにしても幟がしつこいなぁ。

  

鐘楼。お寺には付き物です。撞くものだけに。
…オヤジギャグですね。
これまた歴史を感じさせる佇まい。

  


水子供養のお地蔵様。
たくさんの風車が地面に刺してある。
この一角だけがヤケにカラフルで…

  

夏になれば苔が生して緑の石段になります。
現状保護のため、通行は禁止です。
それでもだいぶ崩れちゃってますし。

  

 さて、これまで登場した“釈迦堂切通し”、『報国寺』、『浄妙寺』、『杉本寺』は、いずれも金沢街道沿いに在るスポット。鎌倉はハッキリ言って寺や神社だらけの街なので、どこをどう歩いていても必ず神社仏閣に当たる、という感じなのだが、もしも寺&神社巡りをするんであれば、一応鎌倉を適当な範囲でブロック分けして、そのブロック毎に目星を決めて周ったほうが効率がいい。「大仏を見て、その後鶴ヶ岡八幡宮に行って、それから次は…」なんて思いつきで周っていると、いたずらに時間が過ぎて行くばかり。
 
 で、僕は“金沢街道ブロック”からJR鎌倉駅の方に戻る。今度は駅から北西の界隈“源氏山周辺ブロック”を中心に寺巡りをしようと思う。
 駅から鶴ヶ岡八幡宮まで続く“小町通り”は、とにかく人でごった返している。通りには飲食店やみやげ物屋、ブティックなどがずらりと並んでいて、鎌倉随一の賑わい。…さっきから気になってたんだけど、いつの間にか鎌倉には人力車が大量に増殖している。昔は一人か二人しか居なかったはずの観光案内の人力車が街のあちこちに待機していて、まるでナンパしてるみたいに、引っ切り無しに女性に声を掛け捲っている。これ、結構ウザい(どうやら京都を本拠地とした人力車屋さんが鎌倉に進出してきたらしい)。客引きをするのは勝手だが、何だかヤケに調子がイイ感じでちょっとホスト風な人力車お兄ちゃんたちがウヨウヨと居るのはハッキリ言って目障り。って、余計なお世話だけど。
 そんな小町通りの喧騒から逃げるように横道に逸れると、途端に辺りは閑静な趣きたっぷりの住宅街になる。「これって偉い人のお屋敷ですか?」ってな感じの豪邸も現れて、いかにも鎌倉なハイソな雰囲気が漂いはじめる。すげぇなぁ。こんな家に住んでる人って一体どんな人なんだろう?
 …そんなことより、寺だよ寺!


 ≪寿福寺≫

 ここは鎌倉五山第三位のお寺。この寺の境内は非公開なのだ。まぁ、非公開とは言っても山門の前に柵が置いてあって中に入れない、というだけで、境内の中を見ることは可能なんだけどね。
 ここにやって来る人の目的は、たぶん総門(一番手前にある門)と山門(境内に入る直前の門)の間に続く参道を歩くことと、本堂の脇にある北条政子と源実朝の墓を見ることだろうと思う。
 確かにこの参道はなかなか雰囲気があって良いのだ。とくに秋の紅葉シーズンなんてそりゃあ見事である。ところで、この参道の両側には杉の木が並んでいる。杉と言えば…そう、花粉症。まさに今はそのスギ花粉が猛威を奮いまくっている時期。花粉症の人がこんな道を歩いたりしたら…きっと参道の美しさに感動するような状況じゃないだろう。
 「涙を流すほど感動したの?」「いいえ、花粉で目がかゆいだけ」みたいな、悲しい状況に陥ること必至って感じ。
 と、修学旅行で訪れたのであろう中学生ぐらいの男子が、杉の木にしがみついて木をユサユサと揺さ振り出した。
 「ヘ〜イ、スギ花粉、スギ花粉〜♪」「うわぁ!やめろよ!」「アンタ何やってんのよ〜!」
 …おい、少年。そんなことしてると天罰が下るぞ。と僕が思ったその矢先、スギ花粉撒き散らし男子は、並木の縁(ふち)に置かれた土嚢にけっ躓いて豪快にすっ転んでしまった。…天罰、恐るべし!!
 あれ?天罰って仏教だったっけ?仏様って天罰を下すんだったっけ?あれは神様だったっけ?…ま、あまり深く考えるのは止そう。
 


総門から参道を見たところ。
みなさん、奥の本堂に向かって歩いて行きます。
が、その先は非公開で入れませ〜ん。

  

杉と梅の木が並ぶ参道。
距離は短いけれどなかなか綺麗です。
木漏れ日もまたイイ感じ。

  

鎌倉といえば、やっぱりお屋敷町。
この塀、どこまで続くんだ!?という豪邸が立ち並ぶ。
こんなところで育ったら、きっと人生違ってただろうなぁ…

  

 ≪海蔵寺≫
 
 源氏山の下にあるこの寺は、やはり臨済宗の禅寺。本堂の裏には非公開の庭園がある。これまた非公開とは言っても、本堂の脇にあるやぐらから覗き見ることが出来る。
 それにしても、鎌倉の寺にはホントにやぐらが多い。“やぐら”ってのは、岩を刳り抜いた洞窟のような場所の中に石塔や石仏を安置したお墓。きっと本来はそんなところに一般人がズガズカと立ち入ってはいけないんだろうが、案外みんな平気で入って行く。僕はヘンなところで信心深いので、やぐらに入るのはちょっと抵抗がある。まぁ、もともとお寺には墓地が付き物だし、それほどおっかながる必要は無いんだろうけど。
 ところでこの寺には“十六の井”というものがある。境内にある薬師堂の脇の道をちょっと歩いて行くと、洞窟の中にまるでたこ焼きプレートのように丸い穴がキレイに十六個並んだ、湧き水を貯める不思議な井戸があるのだ。誰が何のために作ったものなのかはよく分からないらしい。単に生活用水として使うためじゃないのは確かだろうが…写真を見てもらうと分かるけど、これは絶対たこ焼き用のプレートにしか見えない。これでもっと規模が大きなものだったら、イギリスのストーンヘンジ級のミステリースポットになったはずだ!…そうでもないか(^_^;)
 このお寺も、もう少し後に来れば春の花で境内が色めき立つ。決して大きなお寺ではないけれど、禅寺の凛とした風情が心地良いお寺なのだ。
 

ここの境内も大好きです♪
春〜初夏にかけては花もたくさん咲くしね。
簡素な本堂も僕の好みです。

  

無人の拝観料納所。
訪れてる人よりも100円玉が絶対少ない…
大丈夫なのか?

  


嗚呼、この雰囲気!
おじさん系雑誌(例:「一個人」)の表紙っぽいけど。
でも、やっぱイイわこういうの。

  

照明器具だってこのとおり。
中が電球なのはちょっと興醒めですけども。
迂闊に火は使えないしね、危なくて。

  

やぐらの中に鳥居があった。
…でも、鳥居って神道なのでは…?
仏教って結構そういうところにアバウト?

  

中央が薬師如来像。室町時代の作。
両脇の菩薩像は江戸時代のものらしい。
他にもいろんな像が安置されてますけども…

  

“十六の井”に続く道。
何だかちょっとした探検気分になれる岩。
この岩を抜けると…

  


これが“十六の井”の内部。
ね?たこ焼き焼くプレートみたいでしょ?
奥には菩薩像が立っている。

  

なぜ人は水の中に小銭を投げ入れたがるのか?
「小銭を入れないでください」って注意書きもあるのに…
ひょっとして、トレビの泉感覚?

  

この時期に見られる花のひとつ、ミツマタ。
黄色の他に赤いヤツもありました。
四季折々の花も楽しめるお寺巡り。

  

帰路                  順路