ゆんたくの嵐
   
 そんなわけで、僕は午後7時集合のオフ会に参加するために、8時過ぎにようやくタクシーを捕まえ、目的地・宜野湾へと向かった。
 
 …と、ここで“オフ会”なるものについて分からない方もいらっしゃるかもしれないので、ちょっと説明。
 オフ会ってのは、PC上で知り合い・友達になった人たちと実際に逢って、いろんなお話しましょうよ♪という寄り合いのこと。
 だから例えば「“あおのしましま”のオフ会しましょう!」とかいうことになったら、ここをご覧のみなさんと東京ベイ・ヒルトンのスィート・ルームとかに部屋をとって、シャンプーハットを被ってヨガのポーズで沖縄のことを熱く語る!とか、そういうことをするのだ!

 で、この日は“ちゃんぷる〜メーリングリスト”のオフ会で(メーリングリストについて説明しようと思ったが、僕もよく分からないので自分で調べてください)、会員だったお馴染みの“せんべえさん”に「丁度ささやんが沖縄入りしてるときにやる予定だから、参加しては?」と誘っていただいたのだ。
 つまり、僕はちゃんぷる〜MLの会員でも何でもないのにオフ会に参加してしまうという、かなり大胆不敵なことをこれから仕出かそうというところなのだ。
 そもそも、“オフ会”なるものに参加すること自体まったくはじめてのことだった。人様の前にしゃしゃり出られるような見てくれでもなく、初対面の人とは著しく話が弾まない性分の僕にとって、これはかなりの冒険ではあった。
 しかし、今の僕の心は「一刻も早くせんべえさんに逢って、お詫びしなくては!」という思いに独占されていて、「はじめてだからはずかしい…」とか「どの面下げて乗り込むんだ?」とかいう迷いは微塵もなかった。

 僕を乗せてくれたタクシーの運転手さんは、比較的若い男性であった。30代後半、といったところか。
 陣内孝則を丸くしてメガネを掛けさせたような、なかなか愛嬌のある表情で、あれこれと話し掛けてくる。
 最初のうちは、「今、それどころじゃないんだよ!」などと思ってひどくうっとうしく感じたが、だんだん運転手の明るい口調にほだされて、いつの間にやら一緒になってゲラゲラ笑いながら会話を楽しんでいた。
 
 運転手は最初、僕を沖縄の人だと思っていたらしく、僕が飲み屋の名前を告げると「あ、忘年会ですか?」と訊いてきた。まぁ、たしかに“忘年会”という名目のオフ会だったので、「はい、そうなんです」と答えたのだが、すると彼はいきなり世間の景気の動向と忘年会の話をしはじめ、さらには訊いてもいないのに自分たちの忘年会の話まで、なんだかとても楽しそうに語った。
 「で、お勤めはどこです?やっぱり那覇ですか?」 「は??あ、いえ、僕東京なんです」 「え?東京の方ですか!あはは、私はてっきり沖縄の方かと…」
 そして今度は「東京はどうです?景気の方は…」なんて話がはじまり、沖縄の人の特徴(テーゲー、沖縄タイムなど)の話、東京の人と沖縄の人の違いなどを、こちら(=東京の人間)が気を悪くしないように細心の注意を払いながら話しまくる。
 「で、沖縄にはお仕事で?」 「あ??いえいえ、観光です…」 「あ〜、観光ですかぁ。あはは」

 気のいい運転手の話は、実にさまざまなジャンルに渡って繰り広げられた。
 沖縄の地名の難解さゆえのトラブル、牛丼の“吉野屋”の復活劇、ものすごい酔っ払いを乗せたおかげでこうむった泣きそうな被害、後部座席で過激なアツアツ振りを披露した熟年カップル、沖縄のエイズ第1号を産んだ真栄原の話…自身の体験を交えたそれらの話に、すっかり僕は夢中になった。

 「今、話題になってますでしょ?普天間のこと。あれもねぇ、複雑ですよね…移転移転っていうのは簡単だけど、現実問題として、普天間基地に土地を貸してる“地主”がいるわけですよ。そういう人はお年寄りが多くて、基地からのお金で生計を立ててたりするんですよね。基地が移転してしまうと困るっていう人も、結構いるんですよね。…もちろん、安全っていうこと考えたらこんな街の中に基地があるなんて危険ですから、無いに越したことないんですけど。でも、そういう細かいところまで国は考えてくれてるのかって言ったら、たぶん全然考えてませんよね。やっぱりそういう“地主”さんにもきちんとした保証をしなきゃいけないと思うんですよ。国はね…」
 そう言えば、かつて楚辺の“象の檻”だったかで、知花さんとかいう“反戦地主”の人が、座り込みしたりしてたっけ…
 辺野古にも、普天間にも、さまざまな事情が複雑に入り乱れて、何だか僕はとてもやるせない気持ちになった。
 “沖縄の意思”“辺野古の意思”“普天間の意思”…それは一体どこにあるんだろう…

 タクシーは宜野湾・我如古の“カリー壱番”に到着した。
 僕は運転手に心から「ありがとうございました」と礼を言った。運転手は笑顔で手を振りながら去っていった。
 …あ、名前、見とけばよかったな。僕は少し後悔した。もう2度と逢えないかも知れないタクシードライバーの。

 さて、気を取り直して、僕は店の中に突進。
 確か“カラオケルームで”って書いてあった。……1階じゃないな。2階に移動する。
 2階には個室が4部屋ぐらいあって、その中の一番手前の部屋に、10人くらいの人がまったりと過ごしていた。
 “ここかな?”と僕はとりあえず部屋に入ってみた。
 すると、部屋の人々がこちらを見て「?」という顔をしている。…どうしようか。
 「あのぉ〜、ここって、何の集まりですか?」と僕が訊くと、中の一人が「那覇マラソン走ろうの会、です〜」と答えた。
 どうやら違ったようだ。別の部屋を当たるか…と思って部屋を出ようとすると、一人の男性がこちらに近づいてきて、「ウソウソ、ここは“ちゃんぷる〜”…」と言い掛けた。「あ!じゃあここだ!あの、俺ささきっていうんですけど…」と僕が言うと、近くに来てくれたその男性が「お〜、ささきさん!もう逢えないかと思ってました。せんべえです」と握手してくれた。
 実際間近で見るせんべえさんは、(こういう状況だったせいもあって)なんだかお父さんみたいだった(せんべえさんゴメン!)。僕はせんべえさんに今までのことを説明して謝ろうと思ったが、「まあまあ、こっちに座ってください」と周りのみなさんに急かされて、ろくろくお詫びすることもできず、いつの間にかビールジョッキを片手に乾杯していた。

 この会合には、当HP関連で言うと、セシリアさんやりぃさんもいらっしゃっていて、他にも一度はお名前を聞いたことのある方が結構いらっしゃった。
 僕が加わって、一通り簡単な自己紹介をしたところで、MLの管理人の安里さんが、「じゃあ、みなさんが酔っ払ってしまう前に…」と、“ちゃんぷる〜ML”の来年のテーマと方針といったことを話はじめた。
 それは、『キレイで楽しいだけじゃない沖縄を伝えたい』というものと、『“ちゃんぷる〜ML”版・沖縄の歩き方』というものだった。
 僕はなるほどなぁ、と思いながら話を聞いた。確かにどちらも沖縄を考えるときに重要なポイントだよね。
 しかし…僕は正直言って、こんなにしっかりとした話が聞けるとは思っていなかった。
 沖縄のオフ会=みんな飲んだくれ=カチャーシー=居酒屋メチャクチャ=平謝り みたいなものをほんの少しだけ想像していたので、しっかりとした構想をもってネットと向き合っている安里さんをはじめとする皆さんの話に、すっかり感動してしまった。
 それに引き換え、僕は…ま、それはそれでいいかぁ!
 
 別にずっとこういう話をしていたわけじゃなくて、場がこなれてくるともう銘々勝手にゆんたくゆんたく。
 どうやら沖縄の人のゆんたく好きは本当らしい。硬い話題からやわらかい雑談まで、実に楽しい時間を過ごさせてもらった。
 カラオケルームを借りたわけだから、当然歌も飛び出す。
 あとからさらに4人ほど参加者が増え、ワイワイガヤガヤ、話し声と歌声が錯綜するにぎやかな空間と化したカラオケルーム。
 途中、せんべえさんの飛び道具的十八番『一本刀土俵入り』(by三波春夫、浪曲風セリフ入、おまけに振りつき)という衝撃のワザも披露されたりして、結局オーダーストップが掛かる午前1時過ぎまで時間を忘れて楽しんだ。

 店から出て、隣りのカラオケ屋に行こうかという話が持ち上がった。
 が、安里さんは、ここに来る前に那覇マラソンに参加していたとのことで、端から見ても相当疲れている様子だったし、せんべえさんも翌日は仕事…などの事情でそれは中止となり、それぞれ家路につくことになった。
 帰り際、まだ封を開けていない泡盛“くら”を「はい、おみやげ。また沖縄に来てね」といただいた。で、りぃさんに「それ、写真に撮ってHPに載せなよ〜」と言われた。僕はありがたく頂戴した。

 さらに、車で那覇のホテルまで送ってくださった。(一応言っておくが、運転してくれたのはお酒を飲んでいない人)
 僕は感謝の気持ちでいっぱいのまま、ホテルの部屋に戻った。
 部屋に入って一息つく。

 本当に今日はいろんなことがあった。
 連絡が取れないで慌てふためき、いきなりしまぶくろさんの家に押しかけ、辺野古周辺を案内してもらい、しまぶくろさんを遅刻させてしまい、渋滞に巻き込まれ、タクシーの運転手さんにすっかり心を奪われ、せんべえさんの歌(セリフ&振り)を目の当たりにし、沖縄の皆さんの楽しい話に加わって…
 なんか、ムチャクチャ充実してたって気がする。
 いつもの友人Kとのぐーたらのんびりな旅行も楽しいけど、こういう中身の詰まった旅も案外いいもんだなぁ…

 と、急に僕は猛烈な空腹感に襲われた。
 …思い返してみれば、今日はほとんど何も食べていない。さっきのオフ会でも飲んでしゃべってばかりで食べ物にはまったく手をつけなかった。
 ということは、本日私が口にした食べ物は…そうだ、道を教えてもらった“ファミリーストアー○○(名前忘れた)”で買ったアンパンだけだ!
 こんなに腹が減っていては、寝るに寝れない。
 僕はホテルを出て、すぐそばにあるコンビニで“チキンカツ弁当”と“グリーンサラダ”を購入し、ホテルの部屋で食べた。
 …すんごくバカみたい。沖縄にまで来て、俺は何ゆえコンビニの“チキンカツ弁当”を食べなければならないのか…

 胸の中は空虚感ではちきれそうだったが、胃袋は弁当のおかげですっかり満足したようだった。
 僕は自分の愚かさにさいなまれながら床に就いた。
 …明日は、ぜったい“ポーク玉子”を食べてやる!!なにがあっても絶対!!


くら。
仰せのとおり載せてみました。