海千山千 〜山
      
 辺野古から331号線を、あの有名な“カヌチャベイホテル&ヴィラス”方面に進んでいくと、“瀬嵩”と呼ばれる集落があった。
 「もうね、ここは完全に陸の孤島だね。バスなんて2時間に一本っていう世界だし。車がなくちゃとても生活できないよ」
 …こういうところで暮らすってのは、一体どんな感じなんだろう。う〜ん、想像もつかないなぁ。
 
 そこから右に入っていくと、緩やかな山道になる。
 道の両側は鬱蒼と茂る雑木林。道も最初こそやや広めになっているが、進んでいくうちにどんどん細くなり、車がすれ違うのもままならない状態。
 「…この道、街灯が全然ないじゃん。こんなとこ、夜走ったら相当怖いよねぇ」と僕が言うと、
 「うん、すごく怖いよ」としまぶくろさん。
 …通ったことがあるのか?
 「あ、ほら、ここが僕の職場」としまぶくろさんが山の中にある施設を指して言った。
 なるほど、職場があるのか。ならばこの道を夜に通ることもあるだろうなぁ。
 「前に、ここを走ってたらイノシシの親子を見たことがあるよ」
 “生”イノシシかぁ…見たことないよ、僕は都会派だし。
 
 こんな細い山道なので、ところどころに待避場所のような、車1台が停められるスペースがカーブする地点に設けられている。
 と、とある待避場所で、中年男女4人が車を停めて、キャンプなんかで使う折畳式の椅子のくっ付いたテーブルを広げて、いきなりお茶会みたいなことを催していたので、僕としまぶくろさんはひどく驚いた。
 「なんでこんなところで?!しかもあんなテーブルまで持ち出して!」
 車であのテーブルをわざわざここまで運んできたということは、はじめからここでこうしてお茶会を開くつもりで来たんだろうか。
 何もこんなところでやらんでもいいと思うのだが…

 そうこうしているうちに、道はなおも狭くなり、両側の雑木林にも、何やら得体のしれないシダ植物やススキが混ざりはじめて、なんだか『ジュラシック・パーク』風。それが道に覆い被さって車のボディーに当たるくらいになってきた。
 案内してくれているのがしまぶくろさんだから安心して乗っていられるが、そうでなかったらムチャクチャ不安だったに違いない。
 「あ〜、やっと目的地に着いたよ」さすがのしまぶくろさんも、心なしか少しホッとした様子でそう言った。

 多野嵩の山頂には、“いこいの村”や展望台なんかがある。


多野嵩からの眺望。
たぶんこっちは今帰仁方面。

       


で、こっちは名護方面。
山しか見えないけど。

     


パラセーリングかなにかの飛び出すところから。
傾斜&簡単な柵でけっこう怖い!

           
 こうしてしまぶくろさんを引きずり回し、さすがにもうそろそろタイムリミットの5時。
 しかし、しまぶくろさんはさらに「名護のビーチに行こうか?」と、まだ続けるご様子だった。
 「時間、ホントに大丈夫なんですか?」とこっちの方が心配になるが、しまぶくろさんは「うん、ぜんぜん平気」と気にしていない。
 …ご本人が言うのなら、たぶん平気なのだろう。
 というわけで、僕は名護にある“21世紀の森公園”のビーチに連れて行ってもらった。
 取り留めのない話をしながら、僕としまぶくろさんは砂浜でぼんやり海を見た。
 …どうして、こんなときって、つい砂とかいじっちゃうんでしょう?
 陽が傾いてきた名護のビーチは、なかなか雰囲気があっていい。
 しかし、もう5時だというのにこの明るさ…東京じゃ、この季節もう真っ暗&寒さでいやんなっちゃうくらいなのに。
 沖縄は、やっぱりいいやね〜。あったかでさ。


21世紀の森のビーチ。
こんなのあるって知らなかった。

       


ホントに明るい。
とても冬の夕方5時とは思えない。

      


左がしまぶくろさん。
半袖なのにも注目!…12月だよ、これで。

   
 この時点でジャスト5時。
 …出勤時間じゃん!!
 「もう5時ですよ!しまぶくろさん」
 「じゃあ、そろそろ帰りましょう」
 これ、遅刻確実でしょ。大丈夫なんだろうか?…たぶん大丈夫なんだろう、沖縄だし。
 
 こうして僕らは辺野古に戻り、しまぶくろさんにお礼を言って別れた。
 しまぶくろさんのおかげで、本当にいろいろな“はじめての沖縄”を見ることができた。
 感謝の気持ちでいっぱいだった。
 「じゃあ、また来てね、辺野古にも。な〜んもないところだけど…」
 「はい!また来ます。今日はホントにありがとうございました」

 自分のレンタカーに戻って辺野古を後にしてからも、しばらく僕は余韻に浸っていた。
 辺野古の集落、海、子供たち、そしてしまぶくろさん。
 …仕事、大丈夫だったかな?怒られちゃいないだろうか?
 今度来るときも、辺野古が変わらず、穏やかで静かな場所であることを願いつつ、僕は沖縄自動車道で一路那覇へ。


沖縄自動車道の夕景。
雲が多くなってきた。明日の天気が気になる。

    


“伊芸”のP.A.。
さんぴん茶と沖縄民謡のカセットを買った。

      
 さて、これから那覇に戻ってから、僕はせんべえさんに誘ってもらった「ちゃんぷる〜MLのオフ会」に行かなければならない。
 せんべえさんとの待ち合わせは、もう果たせぬ夢とあきらめ、僕は直接会が開かれる居酒屋に向かうことにした。
 確か、宜野湾にある店に、午後7時、だったな。
 今、5時30分。…まにあうかなぁ…
 いつものことだが、沖縄自動車道はガラガラで、那覇のインターチェンジまであっという間に着いた。
 お、調子いいじゃん。このままいけば、7時に行けるかも知れない。

 と思ったのもつかの間、一般道に下りた途端に道路は大渋滞。
 なにしろ勝手の分からない沖縄の道だ。抜け道や近道の類もまったく知らない。僕は仕方なくこの渋滞にお付き合いすることになった。
 ハァ〜、こりゃどう考えても7時はムリだな。


県庁の横から“パレットくもじ”を見る。
ここまで来るのにエライ時間がかかってしまった。

     
 那覇の中心部に帰ってくる頃には、もうすっかり陽が落ちて、真っ暗になっていた。
 このとき、すでに時計は8時近く。…なんでこんなに渋滞してんだよ!!
 僕はレンタカーを時間ギリギリで無事返却することができた。
 
 で、車を返すとき、ガソリンを満タンにして返すんだけど、ガソリンスタンドで給油して料金を払おうとすると、
 「443円で〜す!」と言われ、「えっ?!そんなに安いの?!」とすごく驚いた。
 那覇〜辺野古を往復したのに、ガソリン代がたったの443円?…計算間違ってないか?
 と、看板を見ると、『1リットル=57円』と書いてあった。すんげぇ安い!!格安もいいところだ。
 さすが車社会・沖縄。衝撃の真実。こりゃあ車乗りまくりだねっ。

 さて、ホテルに戻るか…そういえば、沖縄に来てからまだ自分の泊まるホテルにぜんぜん立ち寄ってなかった。
 どんなホテルなんだか…なにしろ格安ツアーのホテルだからなぁ…あまり期待はしないが。

 僕が泊まることになっているのは、58号線沿いにあるビジネスホテルだ。
 まぁ典型的な感じであった。可もなく不可もなく、といったところか。
 僕はホテルでチェック・インを済まして部屋に戻り、そのまま荷物を放り出して、すぐさまホテルを飛び出した。
 フロントの従業員も「え?もう出て行くの?」と少しビックリしていたようだった。
 
 58号線に出る。空かさずタクシーを拾う。
 「あの〜、宜野湾にある“カリー壱番”っていう店に行ってください」
 僕は運転手にそう言いながら、後部座席に乗り込んだ。
 …さて、無事せんべえさんに逢うことができるのか。大丈夫。問題ないよね。
 度胸を据えて、意気揚揚、僕は宜野湾を目指した。