かけてゆくこどもたち
  


ついに来ましたよ!
辺野古に!

  
 名護から車で20分くらい走ると、わりと簡単に辺野古への入り口が見えてきた。
 ムチャクチャ味のある看板にウェルカムされながら、僕は辺野古の集落にゆるゆると入っていった。

 …ホントにとても静かな町だ。
 ここが今、問題の渦中にある場所だとは、とても思えないくらいに…
 辺野古の町はひっそりと、穏やかに、海と山に囲まれていた。


なんとも味のある建物。
手前のカッチョイイ車が僕のレンタカー。
   


空の色と街の色の
コントラストがまぶしい。

 
 などと感慨にふけっている場合じゃない!!
 とにかくしまぶくろさんの家を探し出さなくては!!
 僕は集落の入り口付近にあった『ファミリーストア○○(←名前忘れた)』という小さなスーパーにさっそく突入した。

 店の中には客は誰もおらず、それなのにレジには4人もおばちゃんがいる。…人件費が…
 僕が店に入ると、その中で一番若い感じのおばちゃんが、「いらっしゃいませ〜」とごあいさつ。
 「あのぉ、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど…」と僕が言うと、突然レジ付近に緊張感が漲るのを感じた。
 「…はい、何でしょう?」おばちゃん達の視線が痛い。なんだかくじけそう。
 でも、ここで引き下がるわけにはいかない!僕は意を決しておばちゃん達に訊ねた。
 僕「え〜とですねぇ、辺野古地区に“しまぶくろさん”というお家、あります?」
 おばちゃんA「しまぶくろ?…何軒かありますよぉ」
 …何軒か?!
 そうだな、確かに沖縄では“島袋さん”という姓は“鈴木さん”や“佐藤さん”よりもポピュラーな名字なのだ。なにしろ“SPEED”の一員にもいるくらいだ。
 僕「え〜とですねぇ、しまぶくろ○○さんっていう方なんですが…」
 おばちゃんA「…ねえ!地区の名簿あったよねぇ?」
 おばちゃんB「あ〜、ここにあるよぉ」
 おばちゃんC「○○さんて名前、聞いたことないねぇ…(Bに)有ったぁ?○○さんって」
 おばちゃんB「…(名簿をめくりながら)ないよぉ、そういう名前は…」
 おばちゃんD「(僕に向かって)その人、家主なの?」
 僕「いえ、たしかご家族と一緒に…」
 おばちゃんD「じゃあ分からんさ〜、名簿にはその家の世帯主しか載ってないから…」
 
 なんだかおばちゃん4人が総出で僕の問いかけに答えてくれるのはうれしいのだが、あまり大事になるとしまぶくろさんに迷惑がかかるような気がして(例:ここに買い物に来た客に「この前、あそこの○○さんを探してたヘンなヤツが来てさぁ…」などという噂話が集落中に広まってしまうとか)、とても不安な気持ちになる。
 
 僕「あの、たぶん○○○の2、か3っていう住所だったと思うんですけど…」
 D「○○○っていうと、どの辺?」
 C「この下の辺りじゃない?」
 A「(Bに)ねえ、○○○だって。有った?」
 B「…あったあった!たぶんこれよぉ」
 A「ああ、ここン家ね、ここはやっぱり下のところよぉ」
 
 こうして、ようやくしまぶくろさん宅らしい物件が判明した。
 おばちゃんは丁寧に略地図まで描いてくれて、身振り手振りで行き方を教えてくれた。ホントにありがとう!おばちゃん4人組!
 出来れば、4人同時に話すのをやめてくれれば、もっとうれしかったのだが…

 僕は感謝の気持ちをこめて、アンパンと缶コーヒーを買った。


おばちゃんが描いてくれた地図。
稚拙でありながら的確な逸品。

  
 おばちゃんの地図と説明を頼りに、その家の前までたどり着いた。
 …でも、本当にここでいいんだろうか…ま、違ってたら違ってたで、その時はまた別の方法を考えよう。
 僕は思い切って、その家の門をくぐり、玄関に近づいた。
 玄関の前には、たぶん幼稚園生前後の小さな子供が3人、不審な侵入者(=僕)をじっと見つめ、固まっている。
 僕が警戒心を取り払おうと、ニッコリ笑って「こんにちは〜」と話し掛けると、子供たちは弾かれたように家の中に飛び込んで「お母さ〜ん!!お母さ〜ん!!」と絶叫しはじめた。…べつにいいけどね。

 僕が玄関に一歩近づくと、その靴の多さに驚いた。
 しまぶくろさん家は、大家族のようだな。(ホントにしまぶくろさんの家だとしたら、の話ね)
 そんなふうにしていると、中から一人の女性が現れた。
 「はい、何か?」
 この人は、たぶんしまぶくろさんのご兄弟だな。(ホントにしまぶくろさんの家だとしたら、の話)
 「あ、僕ささきっていうんですけど、○○さんはいらっしゃいますか?」
 「え〜っと、お友達ですか?」
 …こう改めて訊ねられると、正直どう答えたらいいかとても迷う。“友達”などと気安く答えてしまっていいものか…
 「あ〜、はい。そんな感じです」と、僕はワケの分からないことを口走った。
 「(逢うことを)お約束してます?」 「あ、はい!」これは自信を持って答えられる。だからこそこうしてここまでやって来たのだから!
 するとその女性は奥にいる誰かに向かって「ねぇ、(しまぶくろさん)いるのぉ?」と訊いた。奥から「いるんじゃない?」というような言葉が返ってきた。…家族の所在を把握していないご様子。わりとアバウトなのね。
 「ちょっと待ってください、今、呼んで来ますから〜」と言って、女性は階段を駆け上がっていった。
 5秒も経たないうちに、再び女性が降りてきて、「今来ますから」と言い終わらないうちに、ついにしまぶくろさんご本人が登場!!
 しまぶくろさんは大変驚いているようだった。そりゃそうだろう。「連絡します」とか言いながらまったく連絡もせず、いきなり家に押しかけて来られた日にゃ、しまぶくろさんじゃなくてもビックリするのは当然だ。
 このときのことを、後にしまぶくろさんは「ジョイ(台所用洗剤)のCMで、突然の高田純次の訪問に驚愕する奥様状態だった」と回想している。実際、まったくそんな状態で、僕もなんだか「隣りの晩御飯」のヨネスケにでもなったような気分だった。
 「あ、どうぞ」としまぶくろさんは僕を部屋に上がらせてくれた。途中、階段を昇りながらご家族のみなさんにもちょっと挨拶したりしながら。

 僕はしまぶくろさんに連絡できなかったことをお詫びして、朝からここまでのあらましを話した。
 しまぶくろさんはしきりに「すごい!すごい!」を連発していた。「すごい!」と言うより「バカ!」って感じですか?
 ひとしきり僕が話し終わると、しまぶくろさんはおもむろに「じゃあ、案内しますよ、辺野古を」と言って、ヒゲを剃りに1階に下りていった。
 僕はなんとなくベランダに出てみた。
 しまぶくろさんの部屋のベランダからは、沖縄独特の青緑色をした海が見えた。
 下の道では、子供たちが5,6人、思い思いに遊んでいる。そのキャッキャという声を聞きながら、僕は海を眺めた。
 集落の静けさと、子供たちの声と、海の色。たちまち僕は幸せな気分にすっかり魂を奪われ、よそ様の家であることも忘れて思い切りくつろぎモードで背伸びしたり、身を乗り出したりして幸福感を満喫していた。

 しまぶくろさんが部屋に戻ってきて、コーヒーをごちそうになったあと、僕はしまぶくろさんと一緒に近所を散策して歩いた。


可愛い色合いの建物。
映画『BEAT』の撮影のときに塗り直されたそうだ。
  


なぜか「東京」。
外人向けのバーであることが如実に分かる。
   


道路に残るタイヤの土の跡と、
基地移設反対のたて看板。
   


ここの女主人は、
あの“ひめゆり部隊”にいたと言う。
     


辺野古総合グラウンド。
…小ぶりな野球場。

    


米兵のための歓楽街。
それが辺野古のひとつの側面。

    
 しまぶくろさんは、本当に丁寧に、僕のバカな質問にもイヤな顔ひとつせずにあれこれと教えてくれた。
 
 しかし、辺野古は僕の想像以上にあまりに静かだった。
 「俺、もっとすごいことになってると思ってた…ヘリポートのこととか…」
 「う〜ん、でも、みんなあまり表立って“賛成”“反対”ってはっきりとは言えない状況なんだよね」

 そう言われて、僕ははじめて辺野古の抱えている問題の深刻さに気がついた。
 確かにこの小さな集落で、“賛成派”と“反対派”で人々が二分されてしまうのはとても大変なことだ。
 ヘリポートを受け入れることで経済の活性化を期待する賛成派の人々。
 静かで平和な辺野古の町と自然を守ろうとする反対派の人々。
 こうして自分の目で辺野古を見て回ると、そのどちらの意見が正しいとか間違っているとか、簡単に判断は下せないだろうなぁ、と思った。
 
 そんなことをぼんやり考えていると、子供たちが道端でのんびりと遊んでいるところに出くわした。
 この日は日曜日とあって、多くの子供が道端で、公園で、家の軒先で、それぞれ思い思いに過ごしていた。
 …いっそのこと、この子供たちに決めてもらったらどうだろう?
 今、辺野古のことを決めようとしている大人たちより、“未来”という時間を長く生きていくことになるであろう子供たちに、「キミらはどっちのほうがいいと思う?」と訊いてみてはどうだろう。
 概して大人は“未来”に対して無責任な生き物である。みな“今”を生きていかなくてはならないから。“現実”を乗り越えていかなくてはならないから。
 はたして、子供たちは、どんな未来を選ぶんだろう…

 と、しまぶくろさんは、道の両側に立っている細い街路樹を指して、
 「この樹ね、夜になるとイルミネーションが点くんだよ」と言ってちょっと笑った。
 ホントだ。おそらく100mくらいの坂道の道沿いに並ぶひ弱な樹には、豆電球の連なったコードが無造作に巻き付けられている。
 こんなところにまで「イルミネーション・クリスマス」というトレンドの波が押し寄せているとは…
 「…あれ?これ、竹じゃん」
 たまたま僕のすぐ脇にあった街路樹は、七夕飾りに使うような細〜い竹を無理矢理添え木して立たせてある“偽・街路樹”だった。…そこまでしてイルミネーションしたいのか?夜の闇の中で光り輝く一節の竹。「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」と言うか、十二単を着た沢口靖子が空飛ぶ巨大シャンデリアに乗って宇宙に帰って、主題歌がピーター・セテラと言うか。
 「なんか、ぜひ見てみたい気がする…」僕は少し本気でそう言った。

 「海の方に行ってみる?」としまぶくろさんが言った。絶対見に行きたい!
 というわけで、僕はしまぶくろさんの車で、海へと向かった。


辺野古の集落のすぐ下に、
青い海原が広がっている。