バカを絵に描いたような旅の振り出し
       
 12月5日、出発の朝は午前3時30分に起床。
 …ものすごくつらい!なぜ俺はこんな時間から起きなきゃならないのか?!
 というのも、僕の申し込んだ沖縄旅行ツアーの羽田空港での集合時間が午前5時50分だから。
 僕の住む東京・小平から羽田空港までは、電車で約1時間半〜2時間は掛かる。遅くとも4時には家を出たい。
 僕は半覚醒状態で、手近にあったカバンに必要と思われるものを適当にズボズボと詰め込んで、ふらふらと部屋を後にした。

 この日の東京はムチャクチャ寒かった。
 ましてやこんな夜明け時だ。寒さに拍車がかかっちゃって大変。
 しかし、沖縄に行くことを考えると厚着していくのはどうかと思ったので、Tシャツの上に長袖のシャツ1枚というかなりの軽装で思い切って出発!
 最寄の駅まで自転車をヒーヒー言いながら漕ぐこと10分。やっとの思いで駅にたどり着いた。
 さて、それじゃあ切符買ってぇ…………
 
 ゲゲッッ!!!なんだ?!!駅、シャッター下りてるじゃん!!
 サ〜ッと血の気が引いた。恐る恐る時刻表示板を見ると…小平の始発は5時7分とあった。
 しまった〜!!こういうことは事前にチェックしておくべきであった!!
 小平を7分に出るとすると、新宿に着くのが36〜7分。それから乗り換えて……う〜ん、どう考えても集合時間には間に合わない。飛行機の出発時刻は6時55分。…これにだってギリギリ間に合うかどうか…

 僕はしばしボーゼンと凍り付いてしまったが、そんなことをしている余裕はない!
 こうなったらタクシーだ。タクシーを捕まえて羽田までかっ飛んでもらうしかない!
 とりあえず僕は駅前のロータリーに向かった。
 …しかし、始発すら来ていない駅前で客待ちしているようなマヌケなタクシーは当然1台もいるはずがない。
 こうなったらここにいても無駄だ。僕は大急ぎで自転車に乗り、再び自宅まで猛スピードで戻って自転車を置き、駅とは反対方向の広い幹線道路へ自分の足で全力疾走した。
 走っているあいだ中、「俺はなんてバカなんだ!たぶん今この瞬間、世界で一番バカな人間は俺だぁぁ」と己のバカさ加減を呪いながら、泣きそうになって走った。

 幹線道路に着くと、空かさず1台のタクシーがはるか彼方から近づいてくるのが見えた。
 僕は『ヤングマン』(歌:西条秀樹)の“Y”のポーズを誇示してタクシーを停めた。
 「どうぞ〜。どちらまでですか?」と、人のよさそうな運転手が訊いてきたので、「羽田空港までお願いします!!」とゼーハー言いながら答えると、運転手は「え?!羽田ですか?」とちょっと驚いて訊き返してきた。
 とにかく僕はなんとかタクシーで羽田に向かうことができたわけだ。少しホッとした。
 このタクシーは川崎の会社のタクシーで、丁度川崎に戻る途中だった。タクシーの運転手も帰りがてらに一稼ぎできるとあって、わりと機嫌がよかった。
 「お客さん、ラッキーでしたねぇ。この時間は乗務員もあまり長距離歓迎しませんからねぇ」
 タクシーの運転手はそんなことを言いながら、いろいろ話し掛けてきたが、僕の方はホッとしたせいか急に眠たくなってきて、話の内容はほとんど憶えていない。ただ別れ際に何故だか“川崎大師に初詣に来る人の気が知れない”という話をしたのだけは克明に記憶している。

 小平〜羽田間の電車賃の10倍近いタクシー料金をトホホな気分で支払い、しかしなんとか無事(?)羽田空港へ到着!
 自分の愚かさが招いたドタバタ劇とは言え、なぜ羽田に着くまでにこれほど気力&体力を消耗しなければならないのだろう。
 …むなしい。

 空港の団体旅行の搭乗手続きカウンターへ行き、引換券を搭乗券と交換してもらう。
 何気なくチケットを見ると、名前の欄に“ナハ−マラソン様”と書かれてあった。
 …そう、実はこの日、沖縄・那覇では、市民マラソンとしては全国一の規模を誇る『那覇マラソン』が賑々しく開催されることになっていたのだ。
 でも、だからって何もこんな名前にしなくても…もしこの飛行機が墜落したら、テレビに“ナハ−マラソンさん”がいっぱい!てなことになったりしやしないんだろうか…


これって…
    
 しかし、一時はどうなるかと思ったが、なんとか飛行機には無事乗れそうだ。
 途中、例によって探知機を鳴らしてしまう(それも2回も!)などの些細なことはあったけれど、まぁ飛行機に間に合えばそれはそれでいいんじゃない♪などと口づさんでみたり。


搭乗待合ロビー。
朝っぱらからビールを飲むおっさんとかが生息。

     


明け方の空港の風景。
まだ暗い!

      
 飛行機が離陸して、機体が安定してきたとたんに、僕は猛烈な睡魔に襲われ、いつの間にやら熟睡していた。
 沖縄に着くまで一度も目覚めることなく、ご丁寧によだれまで垂れ流しながら。
 隣りの人に気づかれていないかちょっと気になって、横目で隣席のおじさんを見ると、おじさんも口を開けて爆睡中。…金歯がまぶしいゼ!
 
 那覇空港に着いて、真っ先にすることが僕にはあった。
 それは、『はっぴ〜もばいる』の「しまぶくろさん」と、『かりゆし通信』の「せんべえさん」と連絡を取ること。
 しまぶくろさんには夕方まで“辺野古”を案内してもらい、せんべえさんには夜、『ちゃんぷる〜メーリングリスト』の忘年会に連れて行ってもらう、という約束をさせてもらっていたからだ。
 僕は公衆電話を探し出し、さっそくお二人に電話することにした。それぞれの携帯電話の番号は、あらかじめメールで教えてもらってあった。
 まずはしまぶくろさんから。 ピポパピポパ。……ツーツーツーツー ありゃ?つながんないや…。
 う〜む、じゃあせんべえさんは? ピポパピポパ。……ツーツーツーツー こっちもだ。
 …ヤな予感。もしもこのまま二人に連絡が取れなかったら…そいつはヤバイ!ヤバ過ぎる!

 ところで、「なんであんたは携帯で電話しないんだ?」とお思いになられる方もいらっしゃるかもしれない。
 実は今年の10月、僕はカバンを盗まれたのだが、その中に財布やら携帯やら全部一切合財入っていたのです。
 で、それから携帯電話も財布も、買わずじまいの状態なのだ。財布を落とすor盗まれれば現金からカードからすべて同時に失ってしまうので、その日から僕は“財布は持たない主義者”に変身。ついでに「ケータイなくても死にゃあせん!」と“携帯も持たない主義者”にもなった。
 しかし、このときほど自分が携帯を持っていないことを後悔したことはない。後悔先に立たず。

 なんとも不安な気持ちのまま、僕はとりあえず空港から外へ出た。
 !!なんだ?この暑さは!気温がどうこう言うのじゃなく、陽射しが強いのだ。道行く人の中には半袖の人もいるくらいなのである。…これが沖縄の12月なの?12月って、確か冬だったよね、世間一般的に。
 すごい!まさかこんなことになっていようとは…恐るべし、沖縄!!

 那覇の中心部に行くためにタクシーを拾おうとしていると、丁度グッドタイミングで路線バスがやってきた。
 僕はそれに飛び乗り、那覇市街へと向かった。


那覇空港からの眺め。
陽射しが強い!これで12月?!

     


路線バスの中。
本土のバスとは少し雰囲気がちがうような…

      

原因はこれかも。カップホルダーと網。
観光バスを流用してるのか?

    
 那覇のバスターミナルに到着。
 ツアーで指定されたホテルは、58号線沿いにあるビジネスホテルだった。
 しかし、ここはチェックインが午後4時からということになっているので、僕はホテルには寄らず、そのままレンタカー屋へ直行した。
 そこで一番安いクラスの車を借りて、とりあえず58号線を名護方面に北上した。

 しまぶくろさんと、名護で落ち合うことになっていたからだ。ただし、もちろん連絡がつけばの話である。
 途中にコンビニがあったので、僕はそこに車を停め、公衆電話から再びしまぶくろさんにtel。
 ピポパピポパ。…“お客さまがお掛けになった電話番号は現在使われておりません”
 ガビ〜ン!!そんなバカな!!
 もう一度試してみる。………やっぱりダメだ。
 じゃあ、せんべえさんの方は?………“もう一度番号をお確かめになってお掛け直しください”
 ……どうすりゃいいんだ!!連絡が取れないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
 僕は「ひょっとすると沖縄の公衆電話は、本土のと微妙にシステムが違ったりするのかも知れない」と思い、116に電話して問い合わせてみた。
 対応してくれたおねえさんはとても親切で、いろいろな人に相談したりしてくれたようだったが、結局沖縄の公衆電話が特別なわけじゃなく、原因はさっぱり分からなかった。

 それでもあきらめきれずに、僕は車で走りながら公衆電話を探し、見つけては何度も電話を掛けてみた。
 が、どの公衆電話で掛けても結果は変わらず。


58号線。
走りながら気が気じゃなかった。

               


名護市街地。
ここでもやっぱり気が気じゃなかった。

    
 とうとう名護まで来てしまった。
 どうしよう…ホントに困った。
 最悪の場合、せんべえさんの方は、とりあえず忘年会を開く店の場所と名前は教えてもらっているので、そこに直接行ってお詫びすればなんとかなるだろう。(それだってせんべえさんにしてみれば失礼な話だとは思うけど…)
 しかし、問題なのはしまぶくろさんだ。
 せっかく辺野古を案内してくださると言うのに、あれほど「楽しみにしてます!」なんて期待させておいて、連絡もせずにすっぽかすなんて…出来ない!そりゃ死んでも出来ない!!

 僕は少し考えた。なんとか手立てはないものか…
 そのときだ。僕の中で、パチッとスイッチのようなものがオンになった。
 “そうだ!僕はしまぶくろさんの住所を知ってるんじゃないか?”
 というのも、以前、「あおのしましま」のアクセスカウンター2500番ジャストをGETしたのが誰あろうしまぶくろさんで、そのとき僕はしまぶくろさん宛てに景品を郵便小包でお送りしたことがあったのだ。

 “ヨシ!落ち着け落ち着け。思い出さなくちゃ、しまぶくろさんの住所、え〜と、名護市辺野古…”
 僕は名護市街の路上に車を停め、車内で頭を抱えて全神経を脳みそに集中させた。
 “確か3桁の数字の後に―が入ってて…う〜ん、1…○…○…”
 そうこうしながら車内でウンウン唸ること10分ぐらい。「たぶんこれだ!」と納得できる程度の記憶を呼び覚ますことに成功!
 こうなったら、直接しまぶくろさんに会って、なんとかするしかない!!
 僕は名護を離れ、一路辺野古へと車を全開で走らせた。
 しかし、辺野古がもしも意外に広〜い地域だったらどうしよう…こんな頼りない記憶が果たして宛てになるのか?
 でも、今はこれしか他に方法がない。思い切って進むしかないのだ。
 
 かくして僕は『しまぶくろさんをめぐる冒険』を開始。
 気分は興信所、はたまた「私の生き別れになったお母さんをさがしてください」とかいう依頼を遂行する某テレビ番組のスタッフにでもなったようだった。
 きっと探し当ててみせるぞ!!待っててね、しまぶくろさん!!